研究課題/領域番号 |
23650240
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
村田 麻喜子 杏林大学, 保健学部, 講師 (00276205)
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研究分担者 |
蒲生 忍 杏林大学, 保健学部, 教授 (90122308)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ヤマトヒメミミズ / 発現プロファイル / 再生 / 分化 |
研究概要 |
ヤマトヒメミミズは環境に応じて無性生殖と有性生殖二つの生活史を使い分け繁殖する日本産の環形動物である。無性生殖では成熟した個体は自ら約10断片へと分節化し、7日から10日で完全な成体個体へと再生するが、個体密度や温度などコントロールすると有性化し他の個体と交尾し産卵する。ヤマトヒメミミズは実験室内でも飼育可能で、二つの生活史をコントロールできることから、再生と分化のモデル動物として有用性が報告されており、分化に関与する幾つかの遺伝子に関しsiRNAを用いた遺伝子発現ノックダウンによる表現型への影響が調べられているがゲノム生物学的網羅的情報は未だ乏しい。本研究ではヤマトヒミミズの研究基盤の充実を目指すと共に、二つの生活史において再生と分化に関与する遺伝子の発現プロファイルの作成と表現型との関連付けを目指す。生活史を無性生活史1) 成熟個体、2) 砕片期、3) 再生期と有性生活史の4) 有性期、5) 卵包中の初期発生個体の計5ステージに区分し、各ステージの均質化cDNAライブラリーの作成し、各ライブラリーのcDNAの塩基配列決定により各ステージで発現する遺伝子を集積、恒常的に発現するハウスキーピング遺伝子やステージ特異的に発現する遺伝子とその発現プロファイルを作成する。またステージに特異的する遺伝子はsiRNAを用いた遺伝子発現ノックダウンによる発現プロファイルと表現型との関連付けを目指す。1年目は成熟個体と再生期の転写産物より作成したcDNAの塩基配列とBLASTによる相同解析を進めており、各ステージで発現する約300のcDNAについて解析した。成熟個体では発現する6割が既知遺伝子であるのに対して、再生期では機能未知遺伝子が成熟期の1.5倍程度発現していることがわかった。今度各ステージの解析数を増やし、生活史全体を網羅する遺伝子発現プロファイル作成を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
(1)ステージ毎のcDNAシークエンスシングの試料の整備:ヤマトヒメミミズの全遺伝子数を15000個と推定すると、各ステージ3000遺伝子分のcDNAの配列データを集積により各ステージで特異的発現を示す遺伝子とハウスキーピング遺伝子の同定が可能と考えている。本研究を始める当たり用意していた無性生活史成熟期のcDNAライブラリーを既知のハウスキーピング遺伝子を指標として評価した結果、各ステージとも遺伝子発現を充分カバーすることが出来ないと判断した。平成23年度は大幅に変更し、各ライブラリーのcDNAの塩基配列決定とその解析から各ステージの個体よりmRNAを用いGatewayシステムによるcDNAライブラリーの作成へ研究の中心を変更することとした。各ステージの個体を確保するのに約3ヶ月の時間を要したため、5ステージのcDNAライブラリーのうち無性生活史の成熟個体と再生期について順次シークエンシングと解析をはじめており、砕片期はmRNAの調製する段階である。有性生活史のcDNAライブラリーは有性個体の頻度が低く、有性分化個体と卵胞中の初期発生個体より充分な転写産物を確保できないために、新たなライブラリー作製出来ていない。個体数を管理した飼育環境で有性化を試みたが、現状では有性化が低い(25%~40%)こと計画が遅れる原因と考えられる。(2)遺伝子発現プロファイルの作成と確認:解析数がまだ僅かであるため、無性個々の遺伝子の発現パターンを比較する迄には至ってはいない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ステージ毎のcDNAシークエンスシングの試料の整備:平成23年度はcDNAライブラリーを再構築することになった為、5つのcDNAライブラリーについてクローンの塩基配列決定と発現プロファイル作製の計画が大幅に遅れる結果となった。平成24年度では平成23 年度に引き続き砕片期と有性生活史の2つのライブラリー作製を行うと共に、各ライブラリーのcDNAのシークエンシングと解析を並行して行う。有性生活史のライブラリーの作製と解析を行う。有性生活史の2ステージ分のcDNAライブラリー作製に充分なmRNAを有性個体と卵を得ることが出来なかった。個体数を管理した飼育環境で有性化を試みたが、現状では有性化が低い(25%~40%)ことから高頻度に有性化を誘発する飼育条件を確立する。(2)遺伝子発現プロファイルの作成と確認:得られた配列データを順次、既存のデータベースと照合し整理する。各ステージに発現するcDNAを比較し、ステージ特異的な遺伝子や全てのステージに共通するハウスキーピングな遺伝子を同定により、ヤマトヒメミミズの生活史の各ステージの特色を明示する発現プロファイルを作成する。ステージ特異的な遺伝子は定量的RT-PCRにより発現確認を並行して行う。時間的に可能であればsiRNAを用いた遺伝子発現ノックダウン実験で表現型との相関を検討する。(3)研究の総括と研究資源としての公開準備:本研究で得られたcDNA配列はESTデータとしてデータベースに登録する。生活史の各ステージにおける遺伝子発現をデータベース化する。また、今後のさらなる解析のために研究資源として提供出来るようしかるべき学会等で確立されたリサーチリソース上に公開し、新しい再生分化の実験動物としての普及を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)ステージ毎のcDNAシークエンスシングの試料の整備:平成23年度に引き続き解析に無性生活史および有性生活史のcDNAライブラリーについてcDNAシークエンシングを進める。平成23年度までにcDNAのシークエンシングに必要な機器等の設備は整っており、本研究費はシークエンシングの試薬消耗品に物品費を使用する。(2)遺伝子発現プロファイルの作成と確認:遺伝子発現プロファイルを確認のため、各ステージの転写産物を用い定量的RT-PCRによる発現量を検出し、発現プロファイルとの比較を行う。定量的RT-PCRのキット試薬およびプライマーの合成費として物品費を使用する。(3)研究の総括と研究資源としての公開準備:上記の各解析からヤマトヒメミミズの生活史の各ステージにおける遺伝子発現プロファイルをデータベース整備のを進める。データの整理等で必要に応じて短期で補助を雇いその経費を人件費・謝金より支出する。研究資源として提供するため、しかるべき学会等での発表するための費用として旅費として計上する。
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