研究概要 |
ヤマトヒメミミズは環境に応じて無性生殖と有性生殖二つの生活史を使い分け繁殖する日本産の環形動物である。無性生殖では成熟した個体が自ら約10断片へと破片分離して、7日から10日で完全な成体個体へと再生するが個体密度や温度などをコントロールすることで分節断片は再生過程で有性化し二個体の間で有性生殖を行う。ヤマトヒメミミズは実験室内での飼育環境下で二つの生活史をコントロールできることから、再生と分化のモデル動物として有用性が報告されている。分化に関与する幾つかの遺伝子に関しsiRNAを用いた遺伝子発現ノックダウンによる表現型への影響が調べられているものの、ゲノム生物学的手法による情報は限られたものにとどまっている。 本研究では二つの生活史を通した広範囲にわたる遺伝子発現を明らかにするため、無性生活史ステージとして1) 成熟個体、2) 砕片期、3) 再生期の3ステージと有性生活史の4) 有性期、5) 卵包中の初期発生個体の計5つのステージに区分し、検鏡により選別した個体より調整した転写産物を出発材料にcDNAライブラリーの作成を試みた。作成した成熟個体(A)と再生期(R)のcDNAクローンを無作為に選択しインサートサイズ300~1000bpのクローン(Aライブラリー;14191, Rライブラリー;1804)の塩基配列を決定した結果、ヤマトヒメミミズの既知遺伝子を含む相同遺伝子を見出しており、各ステージで発現している遺伝子をカバーするため十分なシークエンシング作業と解析を継続している。本研究では有性化ステージのライブラリー作製に充分な個体を得るため有性化を誘導する条件を検討した。一定温度と低密度環境に加え、飼料の栄養価を上げることで2~3%であった有性化率が20~30%まで上昇することが出来た。この誘導により応答する遺伝子の同定は有性化決定機構をあきらかにする手掛かりになる。
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