研究課題/領域番号 |
23650244
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研究機関 | 公益財団法人実験動物中央研究所 |
研究代表者 |
江藤 智生 公益財団法人実験動物中央研究所, 応用発生学研究部, 研究員 (30370175)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 組織・臓器の保存 / Cryobiology / 実験動物 / 超低温保存 / 卵巣 / 生殖工学 |
研究概要 |
実験動物の組織・臓器の長期保存が行えると、系統保存や生命現象の機能解明に有効な試料となる。しかしDMSO等の耐凍剤を使用する既存の保存方法では、わずか数ミリの肉薄な組織の一部しか保存できない。一方食品業界では食材に高電圧を加印して、過冷却状態のまま保存する方法がある。私はこの方法に着目し、高電圧を使用して組織や臓器を生きたまま長期間保存する方法を検討した。 組織や臓器を長期間保存するには、-150℃以下で保存する必要性が考えられるが、高電圧を加印した食品保存は-10℃程度の温度域までしか実績はない。そのため超低温まで冷却した際の組織や臓器の様相を確認するために、あえて臓器を使用した検討から始めた。摘出直後のGFPマウスの卵巣に、5000Vの高電圧を加印しながら室温から-0.5℃/minの速度で-15℃から-30℃まで冷却した後に、液体窒素に浸漬して1から7日間保存した。5000Vで加印しながら室温まで加温後した卵巣の外観を観察すると、形態は保存前に近く、組織液の流出もほぼ見られなかった。保存後の卵巣はワイルドタイプのメスに卵巣移植して、約2週間後からオスと連続交配した。9/10ペアが出産して、出産メス1匹当たり平均10匹の産子が得られたが、GFP蛍光個体は確認されなかった。一部の卵巣移植したメスから再度卵巣を摘出して切片標本を作製したところ、GFP染色卵子は確認されなかったが、一部の組織はGFP染色された。次に鶏卵を同方法で-30℃まで冷却して、約1時間保存した後に室温まで加温して観察を行った。卵白は保存前と同様の様相であったが、冷却後の卵黄は固まった。卵白内の蛋白質は低温に暴露しても室温に戻せば可逆的な性質を持つが、卵黄内の蛋白質は不可逆的である。そのため高電圧下で冷却しても、低温に対して不可逆的な蛋白質は変性したことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高電圧下で超低温保存した卵巣の外観を観察すると、形態は保存前に近く組織液の流出もほぼ見られなかった。そのため細胞内外の氷晶形成によるダメージは少ないと考えられる。また、卵巣移植後の臓器の正着と生存、卵黄と卵白の冷却後の様相の変化の確認により、細胞内物質の保護に対する高電圧の効果の概要が確認出来た。そのため、研究方法のアプローチが容易になり、次年度の研究推進に対して、充分な成果があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの成果により、組織・臓器の長期保存の研究推進のポイントが明確になったと考える。今後の研究推進としては、まず以下の2点を検討する。 1)細胞内外への氷晶形成または再結晶による細胞の物理的な破壊からの保護。これまでの卵巣保存の検討で、組織・臓器を構成する細胞の物理的ダメージによる破壊は大きくないと示唆された。そのため次年度は培養細胞等を使用して、より詳細な物理的ダメージについての解析を行う。また細胞への傷害が保存後の組織・臓器の機能に影響があると考えられた場合、氷晶形成阻害への更なるアプローチを検討する。2)細胞内物質の保護と、ダメージの解析をおこなう。これまでの卵巣保存の検討により、高電圧下で保存すると保存後の細胞内物質の一部は機能が保たれることが示唆された。しかし鶏卵の冷却実験を鑑みると、低温で不可逆的な蛋白の保護は、高電圧の他にアプローチを加える必要性が考えられる。また保存した卵巣の切片標本を観察から、卵子または生殖細胞の保存は充分でないかもしれない。それらを鑑みると、未だ組織・臓器全体を生かしたまま保存する域には達していない。そのため細胞内物質のダメージの解析を進め、さらに細胞や組織・臓器を使用して、高電圧下で保存する際の条件の修正を検討する。そして1)と2)がクリア出来たら、組織・臓器保存を行い、保存後の機能保持の証明を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
試料を基本的に生体から得るため、動物購入費と維持費が必要となる。またプラスチック/ガラス製品等は保存実験や検証実験に使用する。試薬は、細胞・組織臓器に対する培地や耐凍剤としての添加物、及び証明実験用の蛍光色素等を購入する。また実験の進捗状況により、冷却に必要な高電圧凍結機器に使用する低額キットの購入を行う。旅費は調査と発表を行うために使用する。最終年度は特に国内外に成果報告を行うために計上する。実験および研究の為の情報収集そして成果を広報するために計上金額は何れも必要である。
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