研究課題/領域番号 |
23650250
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂元 尚哉 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20361115)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生物・生体工学 / 細胞核 / 細胞骨格 / 架橋タンパク質 / 細胞内力学伝達 |
研究概要 |
LINC複合体を介した力学刺激の伝達が力の感知および細胞応答に果たす役割を検討することを目的として以下の研究を実施し,LINC複合体発現を抑制した細胞実験系の確立を行った.1.RNA干渉法によるネスプリン発現抑制:3種類存在するネスプリンの内,アクチン細胞骨格と直接結合するネスプリン1の発現抑制させるため,内皮細胞へsiRNA(small interfering RNA)の遺伝子導入を行った.遺伝子導入後,ウェスタンブロッティング法により300kDaから500kDaの間の分子量を有するネスプリン1の発現量の減少を,免疫染色法によりネスプリン1の細胞核周囲の局在の減少をそれぞれ確認した.また他のLINC複合体要素であるSUN1/2およびLaminA/Cそれぞれの免疫染色を行い,RNA干渉法によるネスプリン1の発現抑制がこれらのタンパク質発現に影響を与えていないことを確認した.2.細胞形態応答の評価:内皮細胞に繰り返し伸展刺激を負荷すると通常伸展方向に対して直交方向に配向し,伸長した形態を示す.一方でネスプリン1を発現抑制した内皮細胞に対して伸展刺激を負荷したところ,刺激負荷前の比較的丸い形態を維持したまま,伸長・配向現象が見られなかった.また伸展刺激負荷により通常観察されるアクチンストレスファイバの形成もネスプリン1発現抑制により観察されなくなった.この結果は細胞核への力学伝達が細胞の力学刺激感知および細胞形態変化に重要な役割を持つことを意味している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RNA干渉法によるネスプリン発現抑制を行う為に必要な遺伝子導入条件の設定および発現抑制の確認に必要な抗体の選定過程において,当初の計画に比べ時間を要した.その後に予定していた細胞の形態応答評価は順調に行えたが,細胞核変形評価について更に実験方法確立に時間を要してしまった.しかし,平成23年度中に方法確立の目処がたったため,研究全体の進行に問題は無いと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
細胞核変形の評価:細胞核および細胞質または細胞骨格を蛍光色素で可視化し,力学刺激負荷前後の画像を取得する.可視化には蛍光タンパク質融合ベクターの遺伝子導入,または生細胞挙動観察用の蛍光指示薬を用いる.画像解析により刺激負荷前後での細胞核および細胞質の変位を解析する.磁気ピンセットシステムによる局所刺激負荷:細胞に作用した力学刺激は細胞膜から細胞骨格を介して核へと伝達されると想定している.細胞骨格は焦点接着斑,細胞間接着部および細胞上面の細胞膜レセプタに発現する膜タンパク質にそれぞれ結合しているため,様々な方向から伝達される可能性が考えられる.それぞれの伝達経路が細胞核変形および細胞応答に対する寄与を明確にするため,磁気ピンセットシステムを用い細胞膜タンパク質に対して張力を直接負荷する.この刺激負荷実験をLINC複合体発現抑制した細胞に対して行い,核変形に対するLINC複合体の種類および細胞骨格の役割をより明確にする.細胞核変形の細胞機能に対する役割の検討:細胞核へ伝達された力学刺激の細胞機能への役割について,当初の予定より更に本質的な検討を行う為,細胞核変形と遺伝子発現との関係について検討を行う.細胞核変形による遺伝子発現活性の変化および転写因子等の細胞核内への移動現象を免疫蛍光染色法やライブイメージング法による評価を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は当初予定していた細胞核変形評価を次年度に延期することにより生じたものであり,延期した研究に必要な経費として平成24年度請求額と合わせて使用する予定である.
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