研究課題/領域番号 |
23650270
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷下 一夫 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (10101776)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 血管内治療 |
研究概要 |
冠状動脈の狭窄をステントにより拡大して、血流を改善する血管内治療が広く行われているが、半年以内に再狭窄が生じるので、再狭窄の回避が必須となっている。本研究では、再狭窄のバイオメカニカルなプロセスを明らかにすることにより、再狭窄を回避するステントの実現を目指す。再狭窄の原因として、ステント拡張時にステントによる血管壁の応力負荷による血管壁の障害および血管壁の壁面せん断応力が誘発する内膜新生が考えられる。本研究では、これらの力学的因子が相互に関係して再狭窄が生じると考え、両者の影響を統合的に捉えて再狭窄の力学的な原因を明らかにすることが目的である。再狭窄との関連を効果的に調べるために、臨床現場で使用されて臨床成績が明らかになっているステントに着目して、それらの形状や材料の性質を考慮して、血管内の応力分布と血流によるせん断応力の分布を定量的に評価し、ステントデザインと再狭窄との関連について検討を行った。まず有限要素法を用いて、血管内のステントの拡張を解析し、ステント拡張時の血管壁の変形と応力分布を調べた。次に数値流体力学を用いて、有限要素法で調べた血管形状の流れを解析し、壁面せん断応力の分布を調べた。解析の対象としたステントは、臨床現場で使用されている4種類のステントモデルを採用した。その結果、ステント拡張によってストラット付近では、応力集中と低せん断応力領域が見いだされた。再狭窄はステントストラット付近において低せん断応力による内膜増殖と損傷部における血小板の付着によって再狭窄の初期段階が生じ、数ヶ月して半径方向の応力による平滑筋細胞の増殖、収縮性リモデリングの影響によって後期の再狭窄が生じる可能性がある。これらの再狭窄と関連する因子はステントデザインによって大きく影響を受ける事から、再狭窄を軽減するステントデザインが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的としては、再狭窄が内膜の過形成に原因があり、内膜の過形成のバイオメカニカルな要因との関連を明らかにする事であった。現在広く使用されている冠状動脈ステントが血管内にどのような力を与えて留置されるのかをin vitro リアリステイクモデルと計算機シミュレーションによって検証する。前者では、摘出された動物の冠状動脈を使用してステント拡張の実験を行い、血管壁の変形や歪みを測定し、計算機シミュレーションと連携して、応力集中と血管壁面での血流によるせん断応力分布を求め、再狭窄に関わるバイオメカニカルな要因を明らかにする事が出来た。ただ、これらの結果は、再狭窄が生じた実際の臨床実績をもつステントに着目して得られたものだが、再狭窄と力学的パラメータとの因果関係をより明らかにするためには、さらなる検討が必要である。当初の23年度における研究計画に対する達成度という点では、かなりの部分まで達成できたと言える。今後は、力学的パラメータの再狭窄に対するメカニズムをさらに検証する事が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
23年度における知見を踏まえて、再狭窄を回避するステントデザインを検討して、血管壁面でのせん断応力低下と血管壁内の応力集中の回避を実現できるデザインパラメータを明らかにする。即ちこれまでに得られたステントのバイオメカニクスに基づいてステントデザインプロトタイプを決定し、それに基づいてステントを製作する。ステントデザインの形態データにより、直径2-4mmのニッケルチタン製パイプをレーザーによる微細加工により、ステントのストラットが形成される。高柔軟性ステントは、カテーテルに挿入する事が容易で、臨床応用の可能性が大きい。このようにして加工されたステントプロトタイプをin vitro実験により、血管内留置の状態を実験的に明らかにする。in vitro実験では、血管内留置により血管内面にかかる壁面せん断応力と血管壁内での応力分布をモデル血管と実際の血管によって評価する。計算結果と実験結果を総合的に評価して、再狭窄を誘起するバイオメカニカルな要因の妥当性を明らかにし、再狭窄を回避するステントデザインを確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、本研究の最後の年であるので、再狭窄に関する力学的要因の妥当性を検証する段階が中心となる。さらに最後の年であるので、研究のまとめに力点を置く。そのため、動脈血管壁の生物化学的分析、血管モデル流路の作成、流体力学的計測などの実験に関する経費が考えられる。旅費は、成果発表が中心で、謝金は、当該研究のための実験補助、データや資料整理である。その他での中心は論文投稿料、英文論文の校閲に対する費用となる。残額が出た理由と24年度の使用計画:23年度では、医療現場で使われているステントを購入する予定であったが、研究でお世話になっている医学部循環器教授のご好意により、形状データを頂いたため、不要になった。24年度では、研究の仕上げと論文投稿、国際会議での発表に使用する予定。
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