小児の歯科診療において,単純であるが実は最も困難な臨床的作業が咬合調整である.咬合のずれは口腔内のみならず全身的に影響を及ぼすことは周知であるが,とくに成長発育中の小児において咬合の安定は重要である.小児では成人と異なり,自らの意思を表現できづらいことも重なり,咬合調整時に理想的な咬合を付与することは極めて困難であり,現状は術者の臨床経験によるところが大きい.そこで今回,脳波測定器を用いて,小児の咬合変化による脳波を測定・比較し,咬合の異常によりどの程度ストレスを感じるのかを脳波学的に考察し,最終的に小児歯科臨床に還元できることを目的としている. 今年度は実際の計測とデータの解析を行った.小児は精神的に未成熟なため正確な脳波の検出が難しく,また,集中力の持続時間が非常に短いためデータの集積は困難であり,サンプル数が少ないものとなった.そのため,本研究方法による脳波動態を把握するため成人のデータも合わせて解析を行った.仮想の咬合干渉状態は上顎第一大臼歯にスプリント(2ミリ,1ミリ,0.5ミリ)を装着することで再現しそれぞれの脳波およびスプリントの無い,現在の個性正常咬合で脳波測定を行った. 咬合干渉の厚さが大きいほどβ波の占有率が大きくなると予想していたが,本研究で行ったタッピング動作では,咬合干渉の度合いとα波,β波の占有率に明らかな傾向はみられなかった.スプリントを装着しない状態でβ波の占有率が最も高い値をしめしたサンプルが多くみられたことから,タッピング動作そのものが,ストレスとして脳がとらえている可能性が考えられた. 今後は咬合動作をクレンチングやグラインディングへと拡げ,脳波動態との関連性を解明していくことが,臨床応用には必要と考えられた.
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