研究課題/領域番号 |
23650274
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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研究分担者 |
照井 貴子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10366247)
小比類巻 生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40548905)
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キーワード | ナノバイオシステム / 1分子イメージング・ナノ計測 / 分子心臓学 / 筋肉生理学 / 生物物理一般 |
研究概要 |
マウスin vivoにて心筋細胞内分子情報を抽出する基盤技術を開発するため、以下の研究を行った。 In vivoマウス心臓において、心筋細胞内の単一サルコメアの動きを共焦点下に観察することのできる技術を開発した(カメラ速度:100 fps)。すなわち、α-actinin-AcGFP発現組み換えアデノウイルスベクター(ADV)を作製し、これを麻酔・開胸したマウスの心臓に投与した。ADV投与2~3日後に心臓を摘出し、表面から共焦点観察を行った。静止時のサルコメア長は~2.0 μmであった。単一サルコメアの長さの測定精度は10 nmである。さらに我々は、対物レンズにピエゾを設置し、独自開発した技術(ハードおよびソフト)を駆使することによって、心臓の動きにともなう焦点ズレの問題を克服した。すなわち、心臓の圧変化に応じて対物レンズ位置を高速で動かし(~100 μm)、それによって心臓サイクルの各時点において10 nmの精度でサルコメア長変化を捉えることに成功した。心臓のマクロパラメーターも同時に測定し、心電図T波の出現→サルコメア長の短縮→心臓内圧の上昇の順に変化が生じていることを捉えた。 さらに、これらの基本技術を心疾患病態モデルに応用した。申請者らは、トロポニンTに変異を有する拡張型心筋症マウスモデルを有しており、このマウスの心筋ではサルコメアの発揮する張力が著しく低下していることを見出している。この病態モデルから心臓を摘出し、心臓表面からの観察によって心筋細胞を観察すると、正常心臓に比べ、細胞のサイズが著しく大きくなっていた。さらに、正常心臓に比べ、サルコメア長は変化していないにもかかわらず、サルコメアの数が増えていることが分かった。これらの変化は、拡張型心筋症における代償性機構の一つだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、生きた動物の心臓から心筋細胞内ナノ領域の分子情報を抽出するシステムを開発し、これを基盤技術として、新しい心疾患早期診断装置の開発に挑むことである。H.24年度、生理学・医学分野で汎用されているマクロパラメータ(心電図、心臓内圧)と同時に、心筋収縮を表す最も重要なパラメータである「サルコメア長」を高精度で計測することに成功した。これは世界で初めてのことであり、本研究が目指す心疾患診断装置開発につながる。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H.24年度、マウスin vivo心臓において心筋サルコメアの長さを10 nmの精度で計測することのできる顕微システムの構築に成功した。この独自開発した顕微システムに高速位置フィードバックシステム(開発中)を組み入れ、計測精度を上げる。また、心筋細胞の膜電位情報と細胞内Ca濃度についても、in vivoにて行う。膜電位情報は膜電位感受性色素を使う。Ca情報の抽出については、先ずは蛍光指示薬(Fluo-8など)を使う予定である。しかしながら、背景光などの問題が克服できなかった場合、Ca濃度に依存して蛍光強度を変化させカメレオンをアデノウイルスベクターに組み込み、これをサルコメアのZ線に発現させることによって行う。さらに、上述した拡張型心筋症マウスの他、肥大型心筋症マウスを用い、心疾患時、in vivoにおける興奮収縮連関が正常動物と比べてどのように変化しているかを定量化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H.25年度の予算は、主に、分子細胞生物学用の試薬購入や技術開発用の部品の購入に充てるが、本研究では動物も必要であるために、動物(主にマウス)も購入する。 H.24年度の残額が1,701円となっているが、これについては、本研究に必要な試薬の購入に充てる。
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