キネシンEg5は、細胞の有糸分裂を担うATP駆動型のモーター蛋白である。がん細胞ではEg5が過剰発現して著しく細胞増殖が進行する。Eg5のATPase活性を特異的に阻害するMonastrolやSTLCはガン細胞の増殖を抑えることによりアポトーシスを誘導することから、抗がん剤として注目されている。しかしながら、これらの抗ガン剤は正常細胞のEg5も阻害することから副作用の問題がある。目的の部位で特異的に、必要な時にだけ作用する副作用が少ない抗ガン剤が必要となる。そこで本研究計画では、異なる波長の光で可逆的に活性が制御できる光スイッチ機構をもつ抗ガン剤・キネシンEg5阻害剤を開発することを試みる。 光制御型Eg5阻害剤のデザインと合成 Eg5の特徴の1つである特異的阻害剤を利用した光制御を行うために,Eg5特異的阻害剤であるSTLCの構造を基に,フォトクロミック分子を導入した2つの光制御型Eg5阻害剤を合成した. 一つはSTLCのトリチル基部位をフォトクロミック分子アゾベンゼンの両端に結合させたBTBAで、二つ目は、STLCのトリチル基部位とシステイン部位をアゾベンゼンで架橋したACTABである。BTBAでは光可逆的活性の阻害は見られなかった。一方ACTABでは光可逆的にEg5のATPase活性と微小管の滑り運動を光可逆的に制御することが観察された。このACTABは,異なる二つの波長の可視光線で光異性化を示すことが可能である。従って紫外線による生体分子損傷の心配がないため,今後,in vivoでのナノデバイスとしての利用だけでなく,細胞や組織レベルへの応用が可能であることが期待される。
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