研究課題/領域番号 |
23650285
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩永 進太郎 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (70587972)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | バイオインク / バイオペーパー / インクジェットプリンター / 疎水性相互作用 / シクロデキストリン / 組織工学 |
研究概要 |
本研究ではインクジェットプリンターで組織形成に必要なバイオインクとバイオペーパーを新規作製することを試みる。本年度は、バイオインクとして用いるアルギン酸に3種類の異なる疎水性基を導入することを試みた。インクジェットプリンターは粘性によって吐出が大きく左右されるため、バイオインクとして吐出可能な物質の粘度の制御が必要となってくる。本研究で使用しているインクジェットでは、おおむね30 mPa・s前後の粘性溶液が吐出可能である。一方、本研究で作製した疎水性化アルギン酸は水溶液中で疎水性部分が会合し、ナノ粒子の形成が期待できる。これにより、アルギン酸溶液の粘性を低くして、インクジェットからの吐出が容易になると考えられる。作製した3種のアルギン酸と未修飾のアルギン酸溶液を調整し、粘度を測定した。未修飾アルギン酸では6 mg/mLの濃度で粘度が約30 mPa・sに達し、10 mg/mLでは120 mPa・sにもなった。一方、疎水化したアルギン酸では10 mg/mLでも30 mPa・s程度かそれ以下であった。次に作製した3種の疎水化アルギン酸をインクジェットにて吐出し、塩化カルシウム溶液中で構造物の作製が可能かどうかを検討した。その結果、3種類とも10 mg/mLの濃度で問題なく吐出でき、さらにゲルシート構造の作製に成功した。さらに、細胞を3種のゲルに包埋し、その生死判定を行った。NIH3T3を各アルギン酸の生理食塩水溶液に懸濁させ、塩化カルシウムにてゲルを形成させ、培養液中にて1晩培養を行った。培養後にLive/Dead試薬を用いて細胞を染色し、蛍光顕微鏡で観察を行った。その結果、いずれの疎水化アルギン酸に包埋した細胞も、ほとんどの細胞が生存していることが確認された。これらの結果より、疎水化することによりインクジェット用のバイオインクの大幅な改良が成功したといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は研究開始時期が大幅に遅れてしまったために、研究の進捗具合がやや遅れている。本来であれば、バイオインクをバイオペーパー化する際に必要な対のマテリアル作製まで行う予定であったが、実際にはバイオインクの作製及び評価にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度ではバイオペーパーの具体的作製に取り掛かる。本研究ではバイオインクをゲル化させることでバイオペーパーの作製を行うが、細胞が増殖可能でかつ、増殖に伴って架橋点が外れるゲルをスーパーファインゲルと位置付けて開発を行う。すでに作製した疎水化アルギン酸をゲルにすることでバイオペーパーは作製できてはいるが、細胞の増殖が全くおこらないため、バイオペーパー化の際に添加するゲル化剤を開発する必要がある。その材料の一つとして、ゼラチンにシクロデキストリンを修飾した材料の作製を行う。今年度作製した疎水化アルギン酸はシクロデキストリンと強く相互作用することが可能な疎水性部分を有しているため、ゼラチンにシクロデキストリンを修飾することで細胞接着性に優れたパイオペーパーの作製が期待できる。具体的には、αないしβシクロデキストリンをゼラチンに修飾し、3種の疎水化アルギン酸との相互作用を確認する。本手法によってゼラチンとアルギン酸のバイオペーパー化が成功すれば、そのほかの様々な増殖因子にシクロデキストリンを修飾し、細胞の接着・増殖のみならず分化形態なども制御が可能なスーパーファインゲルの実用化が見えてくる。その段階的取り組みを次年度では行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は研究開始時期が大幅に遅れたために、予定していた研究計画通りの実験が遂行できなかった。そのため、計上していた研究費の使用量が大幅に少なくなり、また、予定していた学会参加に間に合わなかったり、実験打ち合わせ会議の出席なども当初予定していた回数よりも少なくなったため、予算の一部を次年度へ繰り越す形となった。次年度では、本年度に行えなかった実験を補填し、従来の計画にあったスーパーファインゲルのためのバイオペーパー化を試みる。そのため、合成に必要な試薬や細胞、また、細胞の分化に必要な増殖因子などの消耗品関連に研究費を使用する。また、次年度では学会や研究会議への参加が多くなる予定であるので、それらに必要な旅費に使用する予定である。
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