研究概要 |
バイオ人工肝臓システムに用いるために、ヘパトーマ細胞や肝実質細胞から誘導した人工多能性幹細胞から、高い肝機能を人工的に誘導可能な細胞株を作製することを目的として研究を行った。本年度は、まず肝細胞で発現しており、肝特異的な遺伝子発現に関与することがわかっているHNFファミリーやC/EBPファミリーといった転写因子群の遺伝子として、HNF-1α, 1β, 3β, 4α, 6αとC/EBP-α, β, γの8種類の肝特異的転写因子の遺伝子をクローニングし、ウイルスベクター上に薬剤誘導できる発現ユニットとして導入し、このウイルスベクターを種々の組み合わせにより、マウスヘパトーマHepa1-6細胞に感染させ、どの転写因子の組み合わせが肝機能を高発現させるために必要であるかについて検討した。その結果、8種類全ての遺伝子を導入したもので誘導発現を行うと最も肝機能が高くなった。クローニングによりスクリーニングを行い、高肝機能を誘導できる遺伝子導入ヘパトーマ細胞株を樹立した。樹立したヘパトーマ細胞では、薬剤非添加の条件では親細胞と同等の増殖性を示したが、薬剤添加による転写因子遺伝子の誘導発現によって、細胞増殖が停止し、細胞形態が上皮様に変化した。薬剤添加によって、アルブミン分泌能、アンモニア除去能、尿素合成能、チトクロームP450活性などの各種肝機能の著しい上昇が転写レベルおよび機能発現レベルで観察された。とくに肝細胞の解毒代謝機能として重要なチトクロームP450活性において、親細胞の約千倍となり、生体内から採取した初代肝細胞とほぼ同レベルの活性を示した。以上の結果より、本研究で樹立した増殖と肝機能発現を切換え可能なヘパトーマ細胞は、バイオ人工肝臓システムや肝機能評価において有用な細胞になりうると考えられる。
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