研究課題/領域番号 |
23650295
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
荏原 充宏 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (10452393)
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研究分担者 |
青柳 隆夫 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (40277132)
齋藤 充弘 大阪大学, 医学部附属病院, 講師 (20448038)
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キーワード | 炎症細胞 / スマート材料 / 急性疾患 / アポトーシス |
研究概要 |
本研究課題では、炎症部位での微妙な環境変化(熱やpHなど)に応答してフォスファチジルセリン(PS)を“on-off”で提示するアポトーシス細胞模倣型スマート粒子の開発を目的とする。通常、PSは正常細胞では細胞膜の内側に局在するのに対し(OFF状態)、アポトーシスを起こすと細胞膜の外へと局在を変え(ON状態)、マクロファージなどによる炎症を回避することが知られており、急性期の生体の炎症反応に対して、アポトーシスを起こした細胞が、細胞膜表面に露出するPSを介して免疫反応を制御するシグナルを出すという報告がなされている。平成23年度までに合成したPSの活性部位を側鎖に有する新規PS誘導体モノマーを用いて、平成24年度には温度応答性のN-isopropylacrylamide (NIPAAm)およびその誘導体との共重合体(PSポリマー)を合成した。高分子の相転移温度は37~40℃付近になるように様々な組成のポリマーを合成した。また、正常な生体組織と類似した弾性率を有する生分解性粒子を作製するため、Pentaerythritolを開始剤としてCaprolactone(CL)とD, L-Lactide (LA)を共重合させた。このポリマーを用いてエマルジョン法によって粒子を作製した。粒子の硬さはCLとLAの比によって制御可能であった。また、コントロールとしてPSを有する脂質を用いてリポソームを作製し、マクロファージの活性化実験を行ったところ、PSリポソームがアポトーシス細胞と同との抗炎症性作用を有することが明らかとなった。以上のことより、今回合成したPSポリマーを用いてナノ・マイクロ粒子を作製することで、抗炎症作用を有する粒子の作製が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フォスファチジルセリン(PS)の活性部位を側鎖に有する新規PSモノマーの合成に関してはおおむね予定通りに進んでいる。これは、申請者のこれまでの経験と実績により重合条件などがスムーズに決まったためである。また、生分解性粒子の設計に関しても、予定通りの弾性率を有する粒子の合成が達成できた。これは、高分子の結晶性の制御の制御が予定通り進行したためである。一方で、その粒子サイズに関しては予定より少し大きめのものができており、今後界面活性剤の種類を検討することによってス百ナノメートルサイズの粒子の合成を達成する。また粒子の形に関しても、球状の粒子は簡単に作製できるが、今後は楕円など様々な形のものを作製し、マクロファージへの取り込みなども検討していきたいと思っている。そのためには、リソグラフィーなどを用いることも検討している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製したPS粒子表面のPS基の活性の評価を行う。また同時にPSポリマーが修飾された表面の作製も行う。これにより簡便に炎症評価の実験が行えるものと考える。その際、表面ポリマー密度やPS密度、ポリマーの運動性などを調節する。PSと認識結合するたんぱく質(アネキシンV etc.)を用いて、37℃(OFF状態)と40℃(ON状態)におけるPSの表面密度を調べる。PS粒子が炎症細胞の抗炎症作用に与える影響について調べる。肺胞マクロファージを用い、炎症性サイトカイン(TNF-alpha, IL-6, IL-1beta etc.)および抗炎症性サイトカイン(IL-10,TGF-beta etc.)のレベルをEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay (ELISA)により測定する。コントロールとして、筋芽細胞およびアポトーシス筋芽細胞においても同様の評価を行う。PS粒子が、目的細胞表面のPSレセプターを介したシグナルによって、炎症に関わる転写因子を制御しているかについてウエスタンブロッティングにより確認する。具体的には、炎症性サイトカインの転写因子であるNF-kBの活性化に関与するIkBのリン酸化について検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
作製したPS粒子表面のPS基の活性の評価に257,235円を使用する。具体的には、肺胞マクロファージ、炎症性サイトカイン(TNF-alpha, IL-6, IL-1betaetc.)、抗炎症性サイトカイン(IL-10,TGF-betaetc.)、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay (ELISA)などを購入する。また、作製したPS粒子の物性評価や今後の動物実験などに関する打ち合わせとして10,000円を使用する。
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