研究課題/領域番号 |
23650298
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金井 浩 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10185895)
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研究分担者 |
西條 芳文 東北大学, 大学院医工学研究科, 教授 (00292277)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 動脈硬化症 / 医用超音波工学 / 内弾性板欠損 / 位相差トラッキング法 / 表面粗さ推定 / 非侵襲計測 / 医用超音波工学 |
研究概要 |
近年,血液中の過剰LDLコレステロールが,動脈内側を裏打ちする内膜の隙間を通して内膜・中膜に入り,惹起された炎症が動脈硬化症に至るまでのメカニズムが解明されてきた.さらに,病理学では,内膜の内弾性板欠損部分から動脈硬化が始まるという動物実験結果がある.しかし,従来の画像診断法(CT,MRI,超音波エコー,PET等)では,動脈硬化病変部の診断は可能になったが,空間分解能が十分ではなく,内弾性板欠損を生体では観察できない.そこで本研究では,動脈壁の内膜表面に沿った粗さの非侵襲的高精度推定を実現し,「内弾性板欠損の可視化と診断」という新しい医学診断分野を開拓し,極早期段階での動脈硬化症の診断と治療を結び付けることを目的とする.本年度は,動脈壁内側の曲面に沿って粗さ推定を行なう計測システムの設計・製作を行った.(1)水槽中のシリコーンファントムの壁と超音波トランスジューサの間に音速の不均一な模擬組織を設置して,血管壁と皮膚の間の結合組織における音速不均一性の影響の除去が可能であることを,実験的に示した.(2)拍動による半径方向の変位を相殺するため,多数ビームを用いてそのデータ解析によって,軸方向の変位成分のみを計測し,粗さ推定ができることを,模擬実験で示した.(3)血管軸方向の広い領域にわたる粗さ推定を可能にするため,1拍内で血管が自ら移動する距離よりも十分小さい超音波ビーム間隔(約150 μm)の重なりを利用して,超音波プローブの範囲(30 mm)に関する表面粗さを一度に計測できることを示した.特に繋ぎ目の連続性も問題ないことを示した.(4)精度評価,計測の限界を見極める模擬実験として,段差30 μmのノコギリ刃状の表面粗さをもつアルミの試料を作り,そこにシリコーンゴムを流し込み,ノコギリ刃状の表面粗さをもつシリコーンファントムを作成し,表面粗さの推定実験を行い,十分な精度があることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水槽中のシリコーンファントムを用いた模擬実験によって,ヒト生体in vivo実験に適用するに十分な精度が得られていることが確認された.特に,段差30 ミクロンのノコギリ刃状の表面粗さをもつシリコーンゴムファントムを用いた表面粗さの推定実験を行って,十分な精度があることを示した.これらから,次年度のin vivo実験による臨床応用においても,処理の簡素化などを別途検討する必要はあるが,この課題も容易に解決できる見込みが得られている.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 精度評価,計測の限界を見極めるための模擬実験の続き ファントムを超音波トランスジューサに対して傾け,試料のアライメントが完全でない場合に生じる面の傾きのバイアス成分の影響を除くための手法を新たに開発し,その評価を行なう.内面をサンドペーパによって粗くしたシリコーン管を水槽に設置し,その内面の表面粗さを,超音波を用いて計測する.その後,シリコーン管を切断しレーザ変位計を2次元平面内で走査して,面の粗さ計測を行い,超音波による計測結果との比較を行なって,2次元粗さ分布計測に関する精度評価を行なう.さらにサンドペーパの粗さを細かくし精度評価を行なって,粗さ計測の限界を見極める. (2) In vivo 実験による臨床応用 in vivoに適用するために,適用する血管と超音波プローブの走査方法などを検討する.生体へ適用し,心電同期で超音波プローブを走査するため,「心電信号計測システム」を導入し,心電信号をA/D変換器を介して,計測制御システムに入力し,心電図R波から一定の時間遅延後に超音波プローブを走査する.走査幅は超音波の焦域の2倍相当の約1mmである.したがって,頸動脈の直径10mm程度の範囲にわたって表面粗さを求めるには,10拍分のデータが必要となる.このデータ収集を計測制御システムで制御し,得られた超音波RFデータをもとに,血管壁の内曲面に沿った粗さ推定を表示する.この手法を,健常者10名,患者に適用し,表面粗さの差を解析し,動脈壁表面粗さ計測の医学的意義を示す. (3) 総括 超音波反射波の位相と,対象自らのラテラル方向の変位を利用した表面粗さ推定法と,管状の内曲面に沿った表面粗さ推定の超音波による計測システムに関する研究を総括する.本研究によって得られた実験結果(精度,限界),およびヒトへの適用結果をもとに,医療応用の可能性と医学的意義を示す.
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)精度評価,計測の限界を見極めるための模擬実験の続きにおいては,「電子回路部品」を使用する.(2)In vivo 実験による臨床応用においては,in vivoに適用するために,「心電信号計測用フィルタ内蔵型高感度増幅器」を導入し,心電図R波から一定の時間遅延後に超音波プローブを走査することによって,10拍分のデータを用いて,頸動脈の直径10mm程度の範囲にわたって表面粗さを求める.また,この実験においては,「ヒト実験用消耗品(超音波ゼリー,心電パッド)」「簡易型心電計用回路部品」を用いる.
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