研究課題/領域番号 |
23650299
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 英之 東北大学, 医工学研究科, 准教授 (00344698)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 脈波 / 血流 / 流線 / 血管動態 / 超音波 |
研究概要 |
我が国の死因の3 割近くを占める循環器系疾患の主な原因である動脈硬化症の早期診断は重要な課題である.動脈硬化の診断には血流速度計測が行われるほか,血管壁の弾性特性(硬さ)を評価できる脈波伝播速度法が広く用いられている.しかし,現在の血流速度計測法は超音波ビーム方向のみの速度成分しか計測できず,複雑な流れの測定には不向きである.また,脈波伝播速度は速いため(数m/s),心臓から手首もしくは足首までの非常に長い伝播経路間の平均的な特性しか評価できず,また,脳梗塞と関係する脳血管状態も診断できない.本研究では,超音波断層像の撮像速度を従来の数十Hz から数千Hz まで向上させた独自の超高速イメージング法を用いて,局所の脈波伝播速度および脈波の反射特性から脳血管系の機械的特性を推定する手法を開発する.今年度は,(1)頸動脈局所脈波の計測・解析に関する研究,および(2)血流イメージング法に関する研究を行った.(1)については,心拍による頸動脈壁振動速度・加速度波形を約3500 Hzの高時間分解能で超音波計測し,周波数解析によりその位相を解析することで進行波と反射波を弁別できることを示した.また,脈波の伝播に伴う加速度波形の位相変化から,15 mm程度の局所において進行波および反射波の伝播速度をそれぞれ個別に推定できることを示した.また,(2)について,赤血球からの微弱な散乱波をSN良く計測するためのコード化送信方法およびパルス圧縮方法について研究開発を行い,赤血球からの散乱波を他の軟組織の超音波断層像と同様に可視化できることを示した.また,3500 Hzの高時間分解能計測により赤血球からの散乱波の,血流による動きを観察できることが分かり,その動きから流線に関する情報が得られることを示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に計画した,頸動脈脈波の進行波・反射波の弁別に成功するとともに,赤血球からの超音波散乱波のイメージングにも成功し,流線に関する情報を得ることができたことから,順調に研究が進展していると評価できる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,弁別した脈波の進行波・反射波を個別に解析して反射率等を推定する手法について検討を行う.また,血流計測については,頸動脈分岐部などにおいても計測を行い,分岐による乱流なども可視化できるようにする.
|
次年度の研究費の使用計画 |
(1) 模擬循環系の構築: 前年度に研究開発した手法・システムの評価を行うための模擬循環系の構築を行う.電子制御可能な拍動流ポンプを用いて頸動脈血流と同様の拍動流を発生させる.模擬血管内腔からも散乱波が発生するようにするため,流体としては超音波散乱体を混入させた模擬血液を用いる.模擬血管としては,模擬血管寸法および弾性特性の変化による圧力波(脈波)の反射特性の変化を検討するため,異なる寸法のシリコーンゴム管を用いる.(2) 模擬循環系を用いた基礎実験による評価:(A) 進行波・反射波分離法の評価: 模擬血管を用いて評価実験を行う.計測部位より下流に,計測部位と寸法の異なるシリコーンゴム管を接続し,反射波が発生するようにする.下流側に接続するシリコーンゴム管の寸法を変化させた場合に,それと対応して推定した反射波振幅が変化することを確認する.(B) 流線描出法の評価: 血流計測法に関しては,拍動流ポンプを用いて流速を変化させ,流速に対応してエコー軌跡の長さが変化することを確認する.流速の真値は別途流速計を用いて計測しておく.また,模擬血管内に人工的に狭窄部位を設けて乱流を発生させ,乱流による流線の変化が観察できることを確認する. (3) ヒト頸動脈のin vivo計測: (A) 頸動脈を伝播する脈波の計測: 超高速超音波イメージングシステムを用いて,脈波到来に伴う頸動脈壁振動速度の空間分布を計測してフーリエ変換もしくはヒルベルト変換を用いて複素信号化し,開発した進行波・反射波分離方法を適用する.得られた進行波・反射波振幅から頸動脈と脳血管系の接合部位における反射係数を算出する.(B) 頸動脈の血流計測: ヒト頸動脈から得られた超音波信号に開発した血流動態計測法を適用し,血球からのエコーの軌跡を可視化して流線を描出できることを確認する.
|