研究課題/領域番号 |
23650306
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
内山 剛 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00203555)
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研究分担者 |
中山 晋介 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30192230)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脳波 / 磁気センサ / 細胞組織 |
研究概要 |
(1)MIセンサー回路の改良および微小磁界計測技術の確立 コモンモードノイズによる影響を効率的に除去する回路および磁気センサヘッドの構成ついて研究を行った。すなわち、コモンモードにノイズによる影響を効率的に除去するためには、計装用アンプの入力側に高周波ノイズが加わらないための回路構成を工夫し直線導体中に流れる数μAの電流の非接触検出を可能とした。これは磁界にして、10pT程度以下の磁界の検出に対応する。また、センサヘッドの構成としては、1本の直線状のアモルファスワイヤに2つのコイルを組み付けて測定用と参照用の受信部とする、勾配磁界検出(グラジオ)方式のセンサヘッドを製作し、磁気シールドを用いない状態での、微小磁場の計測方法を確立する見込みを得た。(2)非接触脳波計測用MIセンサシステム全体のデザイン 非接触脳波計測用のMIセンサシステムを多チャンネル化するための基礎実験を行った。今年度は、磁気センサヘッド間のクロストークについて検討を行い、2個のセンサヘッド間が4cm以上の場合にほとんどクロストークが生じないことを確認した。また、左後頭部および右後頭部における2チャンネル同時磁気計測の結果からは、その信号波形の相関関数が0.7~0.8と評価された。この値は同一の被験者に対して行った、電極による脳波計測と同程度であった。(3)細胞組織を用いたセンサ空間分解能の実証実験 モルモットから摘出した平滑筋の各種の細胞組織(Stomach musculature、taenia caeci、bladder detrusor)について、生体組織からの磁気信号の検出を試作したMI磁気センサにより行った。組織の種類に応じて、センサ信号の波形が異なることが示された。また、センサ信号波形により組織の機能を評価するための解析方法についてヒストグラムを用いる方法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試作開発した高感度MIセンサにより、磁気シールドレスで10pT以下の微小磁気計測を可能とする成果が得られ、小型の磁界センサを用いた磁気計測システムとして、世界的にも最高レベルを達成したと考えられる。また、試作MIセンサを用いた後頭部磁気の2チャンネル同時計測により、計測システムの信頼性の評価を行い、従来の電極による脳波計測と同程度の信頼性を得ている。さらに、後頭部における磁気計測では、被験者の閉眼および、開眼による検出信号の変化についても実験を行い、時系列信号の変化だけでなく、スペクトル解析によって、α波(8-13Hz)およびβ波(14-30Hz)の信号成分の変化が顕著に得られることを確認している。また、α波やβ波などの背景脳波だけでなく、事象関連電位に対応した磁気信号が得られるかどうかについて、予備的な実験を行い、MIセンサによる非接触脳波計測法でも、p300に対応する磁気信号が得られる可能性が示唆された。 細胞組織を用いた空間分解能の実証実験では、モルモットから摘出した1cm程度の各種平滑筋組織(Stomach musculature、taenia caeci、bladder detrusor)について、その各種組織の機能に対応すると考えられる検出磁気信号が試作開発したMIセンサを用いた実験により得られた。したがって、当該年度の研究の成果から、生体組織の1cm平方以下の領域で、組織の機能を反映する磁気信号を検出できる可能性が示唆されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、MIセンサによる非接触脳波計測装置の開発がおおむね順調に進んでおり、今後は非接触脳波計測システムの複数チャネル化や、医療診断への応用を目的とした脳波計測実験を主に行う。非接触脳波計測システムの複数チャネル化に関する開発は、複数のセンサヘッド間のクロストークなどが問題となると考えられる。MI素子駆動のための通電電流をセンサヘッド毎に時間差を設けて供給することや、3次元の電磁界シュミレーションにより、クロストークが生じないセンサヘッド間隔や配置を検証してそれをシステムの設計・製作に反映する等の工夫によりその課題に対応する。医療診断への応用に関しては、α波やβ波などの背景脳波を利用した診断方法を検討するとともに、事象関連電位に対応する磁気信号が検出できるかどうかについて系統的に研究を行う。特にブレインマシンインターフェース(BMI)技術においても注目されているp300信号についての検出の信頼性について重点的に実験を行う。MIセンサにより細胞組織を評価する基礎実験については、複数チャネル化した超高感度MIセンサシステムを利用して、その空間分解能について実証的な研究を進める。3次元の電磁界シュミレーションにより細胞間を流れる電流と細胞外部の磁界との関係を解析し、空間分解能について実験結果との整合性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
使用する予定の研究費を繰り越す計画となったが、これは当初の実験計画にあった、実験補助に関する謝金の額に相当するものである。この状況は計画の遅れによって生じたものでなくて、むしろ非接触脳波計測についての試作機器の開発については、順調に進んだため、装置試作に関する実験補助に謝金を充てるよりも、開発装置を用いた脳波計測実験の補助に関して充てる方が適当であると考えた結果である。次年度の研究費については、MIセンサによる非接触脳波計測システムの複数チャンネル化に関する試作費および、MIセンサによる非接触脳波計測システムによる事象関連電位に対応する磁気反応の検証実験に関する経費、および複数チャンネル化したセンサシステムによる細胞組織の機能評価に関する基礎実験に使用する計画である。具体的には、複数チャンネル化に関する試作費については、センサヘッド用の精密コイルの部品費、プリント回路基板、アモルファスワイヤ磁性体、多チャンネルの高精度A/Dコンバータなどを物品費・消耗品として計画している。また、MIセンサによる非接触脳波計測システムによる事象関連電位に対応する磁気信号の検証実験に関する実験については、被験者に対する謝金を主な経費として計画している。複数チャンネル化したセンサシステムによる細胞組織の機能評価に関する基礎実験に関しては、ガラス器具や動物実験に関する経費を研究費として計画している。
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