生体における組織の硬さは重要な情報である。組織の硬さを知ることができれば診断や重症度評価に有用だが、心臓の硬さを非侵襲的に評価することは容易ではなかった。近年、音響放射圧acoustic radiation force impulse(ARFI)により生じるせん断弾性波の伝播速度(Vs)を測定することで、組織の硬さの評価が可能になった。本法は肝臓等の動かない臓器を対象にしているため、常に収縮・拡張を繰り返している動的臓器である心臓の硬さを評価できるかは明らかではなかったが、平成23年度の検討から、測定領域を限定すれば比較的安定した測定値が得られることが明らかになった。 平成24年度は、同様に動物実験から、1. エタノールで硬化させた心筋におけるVs値の検討、2. 虚血心筋におけるVsの検討、3. 安全性の検討を行った。 麻酔開胸犬にて、Acuson S2000(持田シーメンス)を用いて左室短軸像を描出し、比較的安定したVs値が得られる短軸上0時領域(前壁)に関心領域を置き、同部心筋内へエタノール注入した前後のVs値を測定した。エタノール注入後、同部のVsは有意に増加した(0.87 ± 0.11 vs. 2.70 ± 0.60 m/s、p < 0.0001)。次に、左冠動脈前下行枝に閉塞器を装着し、前下行枝を完全閉塞させた時のVsを測定したが、これには有意な変化は認められなかった。 ARFIを心筋組織に照射した場合、不整脈の発生が懸念される。このため、四腔断面像の5つの領域で、5秒毎に30回のプッシュパルスを照射し、不整脈の出現頻度を観察したが、期外収縮を含めた不整脈の発生はみられなかった。
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