研究課題/領域番号 |
23650311
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石原 康利 明治大学, 理工学部, 教授 (00377219)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 血糖値 / 非侵襲 / 計測工学 / 光物性 / 光音響 / PAS / 分光 / 糖尿病 |
研究概要 |
近赤外光を利用した非侵襲血糖値計測法において精度・安定性を向上するには、グルコース信号の検出感度を改善する以上に、背景雑音の主要因となる水溶媒(水分子)由来の信号を抑制する必要がある。本研究では、水分子の吸光ピークに対応した波長の励起光を照射することで水分子由来の信号を効果的に分離・識別する技術シーズの萌芽を目的としている。 平成23年度は、水信号の抑圧効果を確認するために、水分子の吸光ピークに対応した波長の励起光を水分子に照射した場合の、吸光スペクトル変化を収集・評価可能なシステムを構築した。このシステムは、市販の近赤外分光光度計を基本構成としており、これに水分子の吸光ピークに対応した1450 nmの近赤外光を外部励起光として照射するための改造を施した。また、分光光度計内部に光学フィルタを追加することで外部励起光による迷光の影響を低減した。 評価試料として2 mmセルに入れた水を用いた実験では、1450 nmの外部励起光を照射することで1600 nmにおける水の透過光が約2~3%変化することが明らかになった。本実験では、外部励起光を連続照射しているため、試料の温度上昇が懸念されたが、恒温セルホルダを用いた基礎実験により、温度変化が水の透過光に及ぼす影響は外部励起光による効果に比べて1/10程度であることが確認された。 上記の基礎実験の結果から、水分子の吸光ピークに対応した波長の励起光を観測光と同時に照射することで、試料に含まれる水の量を推定できる可能性が示唆された。これにより、血糖値計測における正味のグルコースを正確に定量できることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に実施した基礎実験により、水分子の吸光ピークに対応した波長の励起光を照射することで、グルコースを観測する波長における水分子の吸光スペクトルが変化することを明らかにした。これにより、本研究の主目標である『非目的信号(水など)』の吸光ピークを有する波長の励起光を試料に照射することで、『目的信号(グルコース)』の吸光ピークに対応した波長における非目的信号の寄与を推定できることが示唆され、当初予定していた目標が達成された。 しかし、外部励起光と吸光スペクトルの同期観測が困難であったため、励起光の照射に伴う過渡応答を確認することができなかったため、これらの評価は平成24年度の設備備品(消耗品)の導入後に実施することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
水信号の抑圧効果と効率的な抑圧条件を明確にするために、励起光を断続的に照射した場合の影響を評価する。特に、励起パルス出力、励起光領域、パルス繰り返し時間等のパラメータについて、励起光による過渡吸収応答特性の定量評価に努める。 また、検出可能なグルコース濃度の検証を行った後、光音響分光法による血糖計測システムへの展開を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
励起光を断続的に照射した場合の影響を評価するために、高速光検出器を導入する(消耗品費:150千円)。また、励起光領域の影響を評価するために、コア径が異なる複数の光ファイバ(消耗品費:100千円)を準備する。 なお、当初予定していた光音響分光法に基づく血糖計測システムにおいて主要コンポーネントとなる光マイクロフォンについては、研究予算の削減から導入が不可能となったため、低感度な検出器で代用せざるを得なくなった。
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