近赤外光を利用した非侵襲血糖値計測法において精度・安定性を向上するには、グルコース信号の検出感度を改善する以上に、背景雑音の主要因となる水溶媒(水分子)由来の信号を抑制する必要がある。本研究では、水分子の吸光ピークに対応した波長の励起光を照射することで水分子由来の信号を効果的に分離・識別する技術シーズの萌芽を目的としている。 平成24年度は、前年度までに確認された水信号の抑圧効果に基づいて水溶液中のグルコース濃度が推定可能であることを実験的に示すために、評価システムの構築、ならびに、基礎実験を試みた。評価システムは、グルコースの吸光ピークに対応した波長1600nmのレーザ光源、水分子の吸光ピークに対応した波長1450nmのレーザ光源、および、透過光を観測するためのフォトディテクタを用いて構成した。まず初めに、2mmセルに入れたグルコース水溶液(グルコース濃度:0~10%)を対象とした基礎実験を行い、波長1450nmのレーザ光の照射有無によって、1600nmのレーザ光(透過光)がグルコース濃度に依存して変化することを示した。そして、このような水信号の抑圧効果に基づいてグルコース濃度を算出したところ、約10%の計測精度で濃度を推定できることが明らかになった。今後、血糖値と同程度のグルコース濃度が推定できることを明らかにする必要があるが、採血に基づく『簡易血糖自己測定器』は10~20%の計測精度で家庭用血糖値計測手法として供せられていることから、非侵襲血糖値計測の実現に一歩近づいたと考えている。
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