研究課題
上顎切除術後の開鼻声や鼻咽腔閉鎖不全は患者にとって大きなストレスとなる.正常言語を早期に回復するには顎義歯を作製するが、その機能評価を正確に評価し,症状に応じた適切な処置が必要である.一般に鼻咽腔閉鎖の評価には音声の聴覚判定が重要であるが,臨床経験の差により評価にばらつきが認められる.そこで,ナゾメータやファイバースコープなど機器を用いた検査を組合すことによって評価の信頼性を高める必要がある.しかし,これらの機器は高価で購入が難しく全ての施設で使用できない欠点があり,非侵襲性で信頼性の高い検査法が求められるが,これまでにこのような検査法の報告はない.われわれはナゾメータを用いた開鼻声値(nasalance score,以下NSと記す)の基準を設置するために多くの音声データを収集してきた.また,音声視覚化による異常音の評価に共同研究者として関わっている.このデータと手法を基盤とし,新しい開鼻声評価法を確立することはできないかと考えた。着目点はNSとフォルマントをリンクさせることであり、聴覚的に判定してきた開鼻声を目で判定できるようにすることである。対象は上顎切除後に顎義歯を装着した患者10名である。顎義歯装着前と装着後にNS測定を行うとともに、発話音声をデジタルレコーダーに録音し、音声解析ソフトマルチスピーチでフォルマントを測定した。顎義歯装着前は全例聴覚上開鼻声を呈しており、mean NSは/a/が24.1%、/i/が46.2%、/u/が39.8%、/e/が34.0%、/o/が26.8%であった。装着後は/a/が23.1%、/i/が22.3%、/u/が24.8%、/e/が16.8%、/o/が15.0%と低下した。フォルマント値はF1、F2ともに顎義歯装着前に比べ装着後は値が低下した。例数の増加、フォルマントの細かい値をさらに調べることで相関を得られれば、視覚化可能と考える。