これまで我々は,近年急速に発展し,今後の幅広い応用が非常に期待される経頭蓋磁気刺激(TMS)と脳波(EEG)の同時記録(TMS-EEG)において,刺激直後の短潜時成分から精度良く記録できる手法を開発・発表した(Sekiguchi et al. 2011 Clin Neurophysiol).本研究の目的は,この手法を利用して,運動学習に伴う脳神経ネットワークの変化を明らかにすることであった. 平成23年度は,健常者対象の研究に関する本学での倫理審査,計測機器および運動課題のための装置整備を進めた.また連携研究者である茨城県立医療大学の河野豊医師と連絡を取り,障碍者対象の研究の準備を進めてもらった. 平成24年度は,本学において健常な学生延べ16名を対象にし,指のタッピング運動および鏡映描写課題において初回測定,その1時間後の測定,さらにトレーニング1週間後の測定に関して,パフォーマンスと誘発脳波成分を記録・解析した.誘発脳波の記録は,実際にタッピング運動や鏡映描写課題を実施している最中に記録した.パフォーマンスに関しては,いずれの課題においても有意な改善が観察された.しかしながら,誘発脳波成分に関しては,統計的な差が観察されなかった. 一方,茨城県立医療大学において,倫理申請を行ったが,承認されるに至らなかった. 平成25年度は,誘発脳波測定に関して他研究者との個人的コミュニケーションにて議論し,これまでの運動中の記録ではなく,運動課題直後の誘発脳波記録を繰り返すという手法に転換し,実験を実施した.結果的に誘発脳波成分とりわけ,刺激後100ms付近に現れる陰性電位(N100)および200ms付近に現れる陽性電位(P200)に関して,トレーニングに伴う有意な差は観察されなかった.しかしながら,現在,周波数解析を実施しており,誘発脳波成分に現れない違いの抽出に鋭意挑戦中である.
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