研究課題/領域番号 |
23650351
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
川中 普晴 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30437115)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ユニバーサルデザイン / 福祉用具・支援機器 / リハビリテーション / 福祉工学 |
研究概要 |
平成23年度は,把持体の三次元ポリゴンデータから「握りやすさ」を決定づけるための要因となるもの(特徴量)に関する調査,ならびに特徴量の抽出方法について研究を進めた. ここではまず,(株)バンザイ・ファクトリーにて蓄積されている把持体の三次元ポリゴンデータを平面データに変換し,その凹凸分布の分散を分析することにより,各ユーザの把持特徴について検討した.検討の結果,各ユーザ間で把持特徴の違いが最も顕著に表れる(各ユーザにとって凹凸のパターンが大きく変化する)部分は,各指の先端から第一関節の部分(末節領域)であることが明らかとなった.本研究により得られた知見は,多人数の把持体データから得られた「把持時に生じる位置的・形状的な特徴」であると考えられる.また,この知見はユニバーサルデザインの概念を数理モデル化する際,形状的要素としてモデルに組み込まなければならない要素でもある.本研究を進めることにより,数理モデルの基本骨格となる極めて重要な傾向を発見することができた. また本研究では,把持体の三次元ポリゴンデータから各指の末節領域を自動かつ高精度で抽出する方法についても検討した.ここでは,把持により形成される各指の末節領域が凹面であることに着目し,(1)杯の形状を考慮した深度(凹み度合い)評価法と(2)ポリゴンの位置関係と解剖学的な知識を取り入れたクラスタリングによる末節領域抽出法を提案した.評価実験の結果,深度評価法を用いて末節領域の中心部を検出できること,ポリゴンクラスタリングにより末節領域を高い精度(約90%)で抽出できることが確認された.提案法を用いることにより,末節領域を高速かつ高精度で抽出できるため,多量の三次元データを対象とした把持特徴分析が可能となった.さらに,抽出された把持特徴量を利用した把持体の試作方法についても概要を示し,次年度の研究への発展について議論した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度には,把持体の三次元ポリゴンデータの凹凸分布の分散を分析することにより,ユーザ間で把持特徴の違いが顕著に表れる部分を特定している.また本研究では,それら(末節領域)を抽出する方法も提案している.さらに提案方法は,評価実験の結果から高い抽出精度が得られており,その有用性が示されている.また,抽出された候補領域に対応するポリゴンの位置や法線ベクトルを用いて把持力等の特徴量を抽出することにも成功している.本研究結果については,学術論文として国際学会(査読付きフルペーパー)にて発表することがでた.また,ユニバーサルデザインの分野にて先駆的な学会である日本人間工学会においても研究発表することができた.現在,日本人間工学会 第53回大会において研究成果を発表するために準備を進めており,同学会の論文誌への投稿も準備している.また本研究成果は,医学系・工学系研究者により構成されている日本生体医工学会においても発表することができた. なお,昨年度から実施している象り作業については,当初の予定数と比べて若干の遅れが出ているものの,研究・分析に使用するには十分なデータ数があるため,研究の遂行に直接的な影響は出ていない.象り作業については,平成24年度も継続して進めていく予定である.また当初の計画では,把持特徴量候補として各指の骨格線や関節位置も抽出する予定であったが,現在,検討を進めている段階である.この部分については,今年度前半に完了する見込みである. 以上の内容を勘案すると,当初の計画と比較して「概ね順調に進展している」と判断できる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,前年度に引き続き,握り型の象り作業と三次元ポリゴンデータの作成を進めていく.またそれとともに,抽出された特徴量候補を医学的見地から分析することにより,各ユーザのプロファイル(年齢や性別,指の長さや太さといった手の形状等)と最適な把持体形状の関係に関する研究を進めていく.得られた研究結果から,各ユーザのプロファイルを入力すれば最適な把持体の形状(各個人が最も握りやすい形状)を決定するような数理モデルを目指す. さらに,導出したモデルに基づいて複数の試作品を製作するとともに,モデルの有効性(医学・福祉工学の観点から,どの程度「握りやすさ」を反映しているか)を検証する.構築した数理モデルの評価実験等については,三重大学と鈴鹿医療科学大学,県内の福祉施設において実施する.実験では,(1)被験者自身の握り型を用いて作成したコップと(2)本研究で導出したモデルに基づいて試作したコップ,(3)なにも加工されていないコップの3種類を準備する.各コップ(把持体)を握った時の腕の筋肉の変化を筋電計で計測し,導出したモデルがどの程度「握りやすさ」を反映しているかを医学的観点から検討する(把持する際に余分な筋力を必要としていなければ,筋電位は小さくなると考えられる). また実験では,各被験者に対してアンケート調査を実施し,量的評価に加えて質的評価も行う.評価実験にて得られた結果から,モデル構造に関する検討やパラメータの再調整等を行い,再度同じ被験者を対象とした評価実験を実施する.これらのプロセスを繰り返し行うことにより,導出したモデルの更なる高精度化を目指す.実験結果を分析し,導出したモデルの精度を向上させるための改良を進めていく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
【備品】平成23年度の研究経費により,三次元データ作成用の計測装置,試作品製作用の切削装置,これらを制御するためのワークステーションを購入することができたが,杯のような円筒形物体を切削して試作品を製作するには,回転軸ユニットが別途必要となる.また,実施を予定している評価実験では「握りやすさ」を生体情報により評価するため,被験者の腕の筋変位を計測するための表面筋電位計を新たに購入する必要がある.【消耗品】購入を予定している表面筋電位計は湿式タイプであるため,使い捨て(ディスポーサブル)の電極が必要となる.また平成23年度は,購入した3次元計測・切削装置に付属していたソフトウェア(フリー)を用いていたが,機能が十分ではないために作業に支障が生じていた.そのため,三次元グラフィクス用のソフトウェアとマニュアルを購入する予定である.なお,昨年度から引き続き実施する「握り型」を象る際に使用する「象り用印象剤(特殊な化成粘土)」も別途購入しなければならない.得られた三次元ポリゴンデータを表示・保存管理するための記憶装置も必要となる.【旅費】 研究成果については,日本人間工学会,医療情報学会,日本感性工学会,日本知能情報ファジィ学会,電子情報通信学会の国内学会,IMIA(国際医療情報学連盟)やIEEEが主催・協賛する国際会議にて発表を予定している. 【謝金・その他】 平成24年度は,「握り型」の象り作業と三次元ポリゴンデータ化,評価実験を実施する予定である.そのため,握り型の提供者や実験協力者,実験補助者に対する謝金が必要となる.また,得られた研究成果を上記の学会に原著論文誌として投稿することも予定している.そのため,論文印刷費用も必要となる.
|