寝たきり患者では、咳嗽力低下による気道内分泌物の排出は生命予後に関わる重大な問題である。咳嗽を補助するための腹筋群電気刺激法は脊髄損傷患者で研究されているが、寝たきり老人では研究されていない。一方、寝たきり老人では腹筋群の収縮がわずかであっても残存しており、筋電誘発型電気刺激装置を用いれば、その収縮をトリガーとして簡便に電気刺激を行える可能性があると考えた。そこで、本研究では、筋電誘発型電気刺激装置を用いた腹筋群への電気刺激法の基礎的事項を検討することを目的とした。 平成23年度は、筋電誘発型電気刺激装置を購入し、本学所有の咳嗽力測定機器等と合わせて予備実験を行い計測機器のセットアップを進めた。また、この過程で、咳嗽力(咳嗽時最大呼気流速peak cough flow: PCF)測定体位の影響を考慮する必要性が判明し、予備研究として健常青年24名を対象として座位と背臥位での比較を行った。 平成24年度は、咳嗽力測定に使用するマスピースやマスクの影響を明らかにする必要性が明らかとなり、先ず予備的研究として健常青年20名を対象に実施した。その上で、健常青年13名を対象として、腹筋群電気刺激法の咳嗽補助効果を検討した。電気刺激には、筋電誘発電気刺激と、手動電気刺激を行い、また基礎データとして電気刺激なしの咳嗽力も計測した。電気刺激部位は腹直筋と側腹筋群の2部位とし、安静吸気位、予備吸気量の50%、および最大吸気位の3つの肺気量位から電気刺激を行った。筋電誘発電気刺激は2部位と3肺気量の組み合わせによる6条件全てで、全対象者で電気刺激のトリガーが可能であった。咳嗽力への効果は対象者によってばらつく傾向があり、全体として高い補助効果は明らかではなかった。また、筋電誘発電気刺激は、咳嗽だけでなく、体動などによる筋活動でもトリガーされることがあり、臨床応用の課題であることが分かった。
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