本研究は、スポーツの技術(課題達成を保証し得ると考えられる有効な動きかた)の分析法の開発に資するために取り組んだ研究であり、言語規則を拠り所とした分析法の可能性を探ろうとしたものである。なぜこのような着想になったかというと、これまで技術分析は自然科学的分析によって動きの客観的メカニズムを解明することが主であり、そうした研究が技術研究と考えられている。しかし、学習者自身や学習者を直接指導しようとする指導者は、動きかたの自然科学的な客観的メカニズムを知りたいというよりも、どのような感じでどんな要領で動いたらいいかという、運動する人にとっての意識内容が知りたいのである。この内容はことばで表されたり、ことばでやりとりされるのである。このことに関して、本研究では、技術としての動きかたにはことばが持つ規則性(文法)と類似する規則が存在しているのではないか、と考えた。例えば、言葉が線状性を有するように、動きかたも順序よく展開していくものであること、また、ことばが名詞や動詞、形容詞など、品詞をある規則に従ってならべることによって言いたいことを表すように、動きかたも望ましい動きかたをすることが必要であり、そこでは運動の課題の達成を保証する動きの要素(例えば、勢いをつける、ゆっくりと行う、足を高く振り上げるなど)のふさわしい展開(規則性)が必要になる。この展開はことばの規則と同様の規則が前提となっているのではないかと考えたのである。 このような考えから、従来のように技術を自然法則的分析から行うのではなく、行為の規則性(現象学的立場ないし発生運動学的立場)から分析する可能性を3年に亘って探ってきた。最終年度では、収集してきた資料(今日指摘されていることばの規則性ないし文法、技術として言われているいくつかの動きかたの内容)を基にして、このような考え方に関する技術分析の総合的な考察を行った。
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