授業における教師の思考様式について明らかにするため,授業モニタリング法を用いて熟練教師,初任教師,中堅男性教師の3群9名について実験的に調査を行った。実験には教師と学習者の活動が分かるように編集した1単位時間の創作ダンス授業の映像を用いた。それをみながら,授業過程で起こるさまざまな事柄に対して気付いたこと・考えたことを即時的に話してもらい,それらを録音した。収集されたデーターは思考命題の傾向をとらえる分析カテゴリーを用いて分析し統計的に処理を行った。その結果,1単位時間の授業における思考の命題総数は,男性教師平均100.0,熟練者97.3,初任教師36.7であり,「教授」に関する思考の命題数は,男性教師平均48.0:52.0,熟練者54.0:38.0,初任教師21.3:13.0となった。思考命題総数においては,熟練教師と初任教師,男性教師と初任教師に有意な差が認められた。「教授」に関する命題数には熟練教師と初任教師の間に有意な差があり,同様に,「教授」の下位項目「事実」「印象」「推論」のうち「推論」に,「推論」の下位項目「意図」「代案」「見通し」については「代案」について,熟練教師と初任教師の間に有意な差が認められた。「学習」の命題数,命題内容には差が認められなかった。 つまり,熟練教師と初任教師の間には,授業過程に即して起こる即興的な思考の量と思考の命題に差異が顕れること,特に,「教授」に関する「推論」に,また「推論」の中では「代案」に思考の違いが認められた。なお,男性教師の思考命題については初任教師と間に有意な差が認められなかったが,「教授」対「学習」の数については,男性教師が初任教師との間に優位傾向を示したことから,対象数を増やし検討が必要である。
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