世界的なクライマーの登攀記録に対するKJ法と、世界レベルの日本人クライマー8名へのインタビューをデータとするGTAによる質的研究の結果、高所登山家は登山をリスクを伴うものと把握する一方で、そのリスク故に価値あるものと考え、また意図的に困難度を設定しつつ、リスクを制御していると感じていた。 実際のリスクマネジメントにおいては、リスクがあるという前提の上に、事前の準備によって不確実性を回避する努力をおこなうと同時に、オンサイトでの判断と行為によって事前には制御てきないリスクを回避していた。オンサイトの判断と行為には、詳細な検討による窮地の乗り越え、制御可能部分への集中、オンサイト情報の活用が含まれていた。このような「計画」と「リスクへの感受性」によるオンサイトという2段階のリスクマネジメントは、不確実さを含む自然の中でリスクを制御する的確な方法であると結論付けられた。また、高所登山家は、実践経験を通して根拠なき楽観主義への省察を深め、次の登山のリスクマネジメントに生かしていることが明らかになった。またリスクをオンサイトで制御することが、登山の達成感につながっていた。 一般の登山や学校での自然体験活動は、高所登山家とは全く違ったリスクレベルにある。しかし、こうした活動にもリスクはつきまとい、また常にそれを避ける努力をおこなっていることを考えると、高所登山家のリスクに対する自覚とそれに基づく二段階のマネジメントおよび省察は、一般的な自然体験活動でのリスク低減にも資すると考えられる。また計画やマニュアルに対する臨機応変さの重要性が指摘される現代社会で、場当たり的ではない臨機応変さの備えるべき要件についての重要な示唆をなしえると考えられる。
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