研究課題/領域番号 |
23650407
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
金尾 洋治 愛知県立大学, 看護学部, 教授 (10177488)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 運動性貧血 / 赤血球膜 / 膜脆弱性 / 浸透圧変化 / 二重遠心分離 |
研究概要 |
ヒト赤血球は通常120日の寿命とされているが、長距離選手などによく見られる運動性貧血の場合には、寿命を全うすることなく早く壊れてしまうのであろう.本研究では赤血球膜を構成しているタンパクに注目し、浸透圧の変化に対して強い(壊れにくい)赤血球と、弱い(壊れやすい)赤血球との差異を、構成しているタンパクの差異から明らかにすることを目的として行った。【方法】濃度勾配が30~150オスモルになるように、チューブ内に、食塩水を封入した。次に試料血液を高張側のチューブに入れ、二重遠心分離器を用いて、10分間遠心分離して赤血球を順次溶血させた。そのチューブを溶血開始点から溶血終了点までの中で3つに分け、赤血球膜をそれぞれ得た。さらにSDS-PAGEを行い、そのゲルを銀染色して弱い赤血球膜と強い赤血球膜のバンドの差異について検討した。次に一次抗体としてバンド3、グリコフォリン、アンキリン、スペクトリンを用い、ウエスタンブロッティング方法でその差異の認められたバンドのタンパクの同定を行った。【結果ならびに考察】分子量66kDaあたりで、強い赤血球膜に対して、弱い赤血球膜に濃いバンドが検出された。さらに220kDa~200kDaあたりでも、強い赤血球膜と弱い赤血球膜の差異が認められた。弱い赤血球膜に濃く現れたバンドを、バンド3を一次抗体として用いウエスタンブロッティング法によって検出を試みたが、残念ながら現段階ではうまく特定することが出来なかった。またアンキリンを一次抗体としてウエスタンブロッティング法で検出した結果、その分子量である210kDaにおいて差異が認められた。赤血球膜を横方向に構成するスペクトリンやアクチン、アンカーとなるアンキリンに何らかの変化が見られて、脆弱性が増す可能性は高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度においては、人の赤血球膜を、浸透圧の変化に対して強い赤血球膜と弱い赤血球膜に分離する精度を上げることを第一の目的とした。使用するコイルの本数を120本にまで増やすことで、収集することのできる赤血球膜の量が増加した。SDS-PAGE法で分離して銀染色を行った結果、強い赤血球膜と、弱い赤血球膜の差異が、66kDaおよび210kDa辺りで明確に表れ、その再現性も高いものとなった。 平成23年度におけるもうひとつの目的は、ウエスタンブロッティング法を用いて、タンパクの同定を試みることであった。バンド3、アンキリン、グリコフォリン、スペクトリンをそれぞれ一次抗体として使用して実験した。その結果、アンキリンを一次抗体として用いた場合に210kDaにおいて差異が認められた。赤血球膜の安定性に関与しているとみられる、アンカーとなるアンキリンに何らかの変化が見られて、脆弱性が増す可能性は高いと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の計画は、23年度と同様の測定実験を、さらに精度を上げて行うことが主たるものとなる。現在210kDaあたりの差異は、アンキリンの変化によるものではないかと考える結果が出ている。しかし66kDaでの差異の原因は、いまだ不明なままである。当初はバンド3に変化が見られて、脆弱性が増すのではないかという仮説を立てたが、現段階では検証するに至っていない。さらに、赤血球膜の収集の精度を上げることと、一次抗体に使用する、赤血球膜の裏打ちタンパクを構成している他のタンパクを候補として、66kDaでの差異を示すタンパクを同定することが本研究の目的となる また、ランナーを被験者にして行いこれまでに行ってきた非鍛錬者との差異を比較することも計画している。【研究が予定通り進まない場合の対策】 赤血球膜安定性に強く関与していると考えられているプロテイン4.1、プロテイン4.2あるいはグリコフォリン、さらにはスペクトリンなどの一次抗体を使って、タンパクを同定することを考えている。さらに質量分析法を用いることや、Edman法などのタンパク質内部配列分析を行うことによって、タンパクの同定が可能になると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
一次抗体の試薬をさらに5種類考えており、その物品費で30万円使用する。またランナーに対して運動性貧血の有無に関して事前に測定するための簡易的測定器の購入に20万円、その消耗品費に3万円充てる。 被験者となるランナーに関して被験者謝金として3万円、さらに体力医学会大会(岐阜市)で研究成果の発表を行う旅費として2万円を予定している。 質量分析法に使用する試薬などに関して残金の30万円を充てることを計画している。
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