長距離選手などによく見られる運動性貧血の場合には、赤血球は寿命を全うすることなく早く壊れてしまうのであろう。しかし膜のどの部分から壊れていくのかなど不明な点が多い、本研究では、赤血球膜を構成しているタンパクに注目し、浸透圧の変化に対して強い(壊れにくい)赤血球と、弱い(壊れやすい)赤血球との差異を、赤血球を構成しているタンパクの差異から明らかにすることを目的として行った。 内径0.5mm、長さ300cmのチューブ内に、濃度勾配が30~150オスモルになるように塩化ナトリウム溶液を封入した。そして、試料血液を高張側に15cmの長さまで入れ、二重遠心分離器を用い、赤血球を順次溶血させた。そのチューブを溶血開始点から溶血終了点までの中で3つに分け、壊れにくい赤血球膜と、こわれやすい赤血球膜を得た。その後SDS-PAGEを行い、バンドの差異について検討した。差異の認められたバンドに対してLC-MS/MS分析による、タンパク質の同定を試みた。 SDS-PAGEによる解析の結果、分子量120、80、66、60 (kDa)の4つのバンドで、強い赤血球膜に、弱い赤血球膜と比較して濃いバンドが認められた。LC-MS/MS分析を行った結果、αスペクトリン、βスペクトリン、アンキリン、4.2タンパク、バンド3が検出された。特にアンキリンが強く検出された。 赤血球膜を横方向に構成するスペクトリン4.1タンパクあるいは、縦方向のつながりを構成するバンド3やグリコフォリン、アンカーとなるアンキリンや4.2タンパクに変化が見られて、脆弱性が増す可能性は高い。今研究の結果、主としてアンキリンの一部が失われて、赤血球膜が脆弱化しているのではないかと考えられた。さらに弱い赤血球膜において、特徴的に濃いバンドが求められたことから、バンド3などのタンパクがフラグメント化していることが考えられた。
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