本年度は、硫化水素による気管平滑筋弛緩作用の評価を中心に行った。 気管支喘息発作時の気管平滑筋収縮は、気管平滑筋上に存在するムスカリンM3受容体やヒスタミンH1受容体などのGq蛋白共役型受容体を介して主に生じる。そこで、アセチルコリン(ムスカリンM3受容体作動薬)刺激により生じるモルモット気管平滑筋収縮作用が、硫化水素のドナーである硫化水素ナトリウム(NaSH; 10 microM-5 mM)の投与により抑制されるかを、オーガンバスに浸漬したモルモット気管輪の等尺性張力を測定することで解析した。その結果、アセチルコリン(EC50)投与により生じるモルモット気管平滑筋収縮作用は、比較的高濃度の硫化水素ナトリウム(NaSH; 0.5 mM- 5 mM)の投与により有意に抑制された。 本研究により、硫化水素が気管平滑筋弛緩作用を有すること、またMAP kinase抑制作用を有することが明らかになった。これらの結果は,硫化水素が,気管支喘息治療における全く新たな治療手段となりうることを示唆するものである。 現在、1.硫化水素が、気管平滑筋を弛緩させる細胞内機序の解明、2.whole animalでの硫化水素吸入実験、3.硫化水素が気道リモデリングを促進するメカニズムについて、さらに詳細にわたり検索することで、将来の臨床応用への可能性を探求している。これらの研究は、引き続きコロンビア大学医学部麻酔科学講座と共同で研究を継続している。
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