研究課題/領域番号 |
23650418
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
常岡 秀行 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (20188600)
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研究分担者 |
芳田 哲也 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (00191601)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 熱流補償法 / 活動部位深部温 / 食道温 / 皮膚血流量 / 皮膚温 / 運動能力 |
研究概要 |
本研究は,生体にプローブを挿入・留置しない非侵襲的方法(ZHF法)により測定した活動筋温や従来の測定法による中枢温と動的運動時の体温調節反応との関係を定量化して,深部組織温測定としてのZHF法の有用性を検証することを目的として実験を実施し,以下の内容が明らかになった。1)身体各部位の冷却による運動時の生体反応について,上半身冷却は全身冷却と同程度に中枢温を抑制でき,かつ活動部位の深部温を高く維持できること,さらに冷却面積が全身の40%以上であれば,運動時の食道温や大腿部深部温上昇を同等に抑制できることが示された。2)環境温度21℃および31℃における軽運動時において,能動的皮膚血管拡張が発現する体温閾値はZHF法によって測定した活動部位深部温,および食道温・皮膚温・活動部位深部温から算出した平均体温と密接に関係していた。また運動中の皮膚の急激な冷却は活動部位深部温を低下させるが皮膚血流や発汗も減少することから中枢温(食道温)の上昇を引き起こし,温熱ストレスを増大させることが明らかになった。3) ZHF 法を用いて非侵襲的に測定した運動時の前額部深部温から中枢温の指標として有用である食道温を推定する精度は環境温度や運動強度の影響を受け,中性温度域の環境条件にて運動強度が高く体温上昇が大きい場合は比較的精度がよいが,低温環境条件で体温変動が小さい場合,その推定精度は低下することが示された。また,下肢温浴時の大腿部深部温上昇は大腿部の皮膚温や皮膚血流量よりも,大腿部の筋酸素動態(ヘモグロビン量)と密接に関係することが示された。 このように,本研究の多様な実験結果から非侵襲的方法(ZHF法)により測定した深部組織温測定の有用性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はZHF法の有用性を検証することを目的として実験を実施した結果,研究実績の概要に記載したごとく,おおむね目的を達することができた。したがって,本実験の結果から様々な科学的機序を推察することが可能である。つまり運動時ではZHF法によって測定した活動部位深部温と胸部や前腕部の能動的皮膚血管拡張とは何らかの関係が存在することから,活動筋近傍の深部組織の温度が皮膚血管反応に影響を与える温熱性要因のひとつである可能性が示唆される。 またZHF法による深部温測定は運動時の筋温のように温度変化の大きなものについては比較的精度良く深部組織温を推定できることが示された。従来用いられている侵襲的な体温測定は被験者に対する肉体的,精神的負担の原因となるが、非侵襲的にヒトの体深部温を測定できるZHF法は被験者に対する負担が少ないメリットがある。 このようにZHF法によって測定した活動部位深部温や前額部深部温は,体温調節反応に影響を与える温熱性要因の指標となりうる可能性が示唆され,深部組織温の指標として有用であることが示されたため,本研究では「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はZHF法の運動時における有用性が検証できたため,今後はZHF法を用いた深部組織の温度測定に関する応用実験へと発展させて行く。具体的には水循環スーツで深部組織や活動筋周囲を冷却・加温した場合の無酸素能力と有酸素能力を測定し,活動部位組織温(筋温)と運動能力との相互関係について検討する。 筋温と無酸素性運動能力の関係については,健康な成人男子10 人程度を対象とし,28℃に設定した実験室にて自転車負荷装置(POWERMAXVIII)を用い,最大パワー出現時の60%負荷強度による最大速度の自転車漕ぎ運動(8秒間を40秒の休憩を挟んで10回)を水循環スーツを用いた様々な下半身冷却・加温条件(10~40℃の水循環)にて実施する。その際,大腿部の筋温(ZHF法),皮膚温・中枢温(食道温),自転車運動による平均出力・最大パワー・パワーの低下率,主働筋の筋電図を測定する。得られた実験データを整理して,筋温の程度と中枢温との関係や,無酸素的運動能力に影響を与える温熱性要因について検討する。 筋温と有酸素性能力の関係については,無酸素性運動能力の実験と同様の環境・運動・冷却条件にて,リカベント式エルゴメーターを用いた漸増負荷にて,最大エアロビックパワー測定を実施する。その際,筋温と無酸素性運動能力に関する実験と同様に,大腿部の筋温(ZHF法),皮膚温・食道温(熱電対),自転車運動によるエアロビックパワー(Watt),酸素摂取量(呼気ガス分析)を測定し,有酸素性作業時の筋温と中枢温との関係や,持久的運動能力に影響を与える温熱性要因について検討する。 以上の実験により得られた結果から,非侵襲的に測定した筋温や食道温と運動能力との相互関係について検討し,最大無酸素性パワーや繰り返しパワーの持久性,および最大エアロビックパワーが最も高値を示す筋温や食道温を定量化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究費使用について、主要な物品(レーザー組織血液酸素モニター)の購入は当初予定していた金額よりも安価で購入できたので平成23年度の研究費に残額が生じた。 平成24年度(今年度)は平成23年度に生じた残額(17,070円)を繰越金とし、今年度の研究費(500,000円)と運営交付金(約24万)とを合算して機器(深部温度計)の購入に使用する予定である。
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