今年度は最大有酸素パワーに焦点をあてて、昨年度と同様に水循環スーツを用いた様々な下半身冷却・加温条件を設定して運動負荷実験を行った。具体的には健康な成人男子10 名を対象として28℃に設定した実験室で自転車負荷装置(リカベント 式エルゴメーター)を用いた負荷漸増法による運動を、水循環スーツを用いて10℃~40℃の水を循環させた条件で実施した。最大運動時間や最大酸素摂取量は各条件間で顕著な違いは認められなかったが、大腿部の筋温を36℃~38℃に設定した条件では鼓膜温や発汗量、および心拍数が34℃条件に比べて高かった。これらの結果から、温熱ストレスを軽減して有酸素パワー を最大限に発揮できる至適筋温は34℃程度であることが明らかになった。 さらに、これまでに得られた実験データを整理して検討した結果、1)筋温の程度と中枢温との関係はほぼ比例関係にあること、2)無酸素・有酸素運動能力に影響を与える温熱性要因は中枢温よりも筋温の影響が大きいこと、3)繰り返しパワーの持久性や有酸素パワーを高く維持して温熱ストレスを軽減できる運動前の筋温は34℃~36℃であることが明らかになった。 本研究を総括すると、 非侵襲的方法(ZHF法)を用いた深部組織温測定は、熱電対を用いた食道温よりはリスポンスが遅い傾向にあるため寒冷・温熱環境下における体温調節反応の測定には注意を要するが、運動能力と筋温の関係を明らかにする実験には有効利用できることが示された。
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