研究課題/領域番号 |
23650428
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
徳山 薫平 筑波大学, 体育系, 教授 (00207565)
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研究分担者 |
佐藤 誠 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50242409)
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キーワード | 青色LED / 睡眠障害 / 居眠り / メラトニン |
研究概要 |
短波長LEDをヒューマン・カロリメーター(間接熱量測定用の密閉室)に設置し、就寝前2時間の短波長光暴露(5ルックスに設定)の有無が睡眠(睡眠ポリグラフにより解析)と睡眠時エネルギー代謝(間接熱量測定)に及ぼす影響を検討した。年度途中に学内の健康医科学イノベーション棟1階にカロリメーターを睡眠研究専用に新設(それ以前は総合研究棟Dの施設を使用)し、代謝測定の精度を更に向上させて研究を遂行した。 就寝前に通常認められる心拍数や体温(本研究では内耳温度を測定)の低下が光暴露で抑制されたが統計的に有意な差ではなかった。睡眠の質と量(総睡眠時間、睡眠効率、睡眠潜時、睡眠深度など)あるいは睡眠時エネルギー代謝(エネルギー消費量、脂質酸化、炭水化物酸化など)にも統計学的な有意差は認められなかった。睡眠ポリグラフによる脳波測定とエネルギー代謝測定を翌日の昼まで続けたところ、マイクロ・スリープと呼ばれる現象が光暴露翌日の午前中に顕著となった。これは脳波測定から睡眠深度1-2の浅睡眠と判定される“居眠り”で、対照群の6±8分に対して、26±29分と統計学的に有意に増大した。またそれに伴ってエネルギー消費も低下する傾向が認めたが、統計学的に有意な差とはならなかった。更に被験者からの聞き取りによって、光暴露翌日の午前中には覚醒状態を保って座位安静を保つことが困難であったとの報告を得た。翌朝午前中の脳波の周波数解析によりα波の出現が光暴露翌日の午前中に増大していることが明らかになった。 本研究では穏やかな光照射条件により睡眠に顕著な影響がなくとも、翌日(少なくとも午前中)の活動が影響を受ける事が示唆された。現代社会の生活習慣上の問題(睡眠障害、寝坊と朝食欠食、午前中の学習効率の低下など)に対応する実験モデルとなる可能性が見えつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LEDをカロリメータに設置して実験条件を設定し、必要な測定を計画通りに行える体制が築けた。1回の光暴露で睡眠や睡眠時エネルギー代謝に影響が認められなかったことは、先行研究の結果から考えて予想外であったが、それでも光暴露翌日午前中の覚醒度に影響が認められたことは新たな知見と考えている。先行研究との結果の相違は光照射の方法(専用ゴーグルを装着して強制的に光を眼に当てた先行研究vs 天井からの光を直視しないよう配慮した本研究)の違いにもよるが光照射量の違いである可能性も考えられた。本実験で購入したLED はパナソニック社の特注品で、実験条件を提示して作成依頼したものであり、光源と眼の距離から5ルックス程度になるよう計算されて設計されている。しかし、次年度に実験を継続するにあたっては、光照射条件について、光放射の実測を追加して実験条件を先行研究と比較する必要があると考え検討を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
光照射量はLED製造会社(パナソニック社特注)から供与された資料に基づいて、光源から被験者の目までの距離から被験者が浴びる光の強さを推定して実験を行ってきた。5ルックスという光の強さは非常に低レベルであり、これが睡眠への影響が認められなかった原因であると考えているが、睡眠を大きく妨げない光照射が翌日午前中の覚醒度に影響することは興味深い知見だと考えている。先行研究で報告されている睡眠阻害についても再現できれば興味深い実験モデルの条件が設定できると考えている。従って、放射照度を実測し、被験者の眼の安全を確保しながら、より強い光の照射についても検討する必要がある。このためには、短波長光の網膜に対する影響(障害)に詳しい専門家の意見も取り入れて安全に研究を進める必要があると考えている。短波長光の網膜への障害についての専門家グループと春の学会でコンタクトを取り、研究を進めて行く。併せて、短波長光に限定せずに他の光条件(白熱光など)での検討も行うことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
短波長青色LEDの対照光として長波長LED(波長550nm)による光照射条件を設置する。このために70万円を計上。また食事条件(特に睡眠直前の夕食の時刻や栄養素比率)が睡眠に影響するので、実験食を提供して測定条件をコントロールする。同じ理由から測定日の自然光照射を統一するために、当日は朝から室内(イノベーション研究棟)において生活するよう被験者に依頼する。そのために食料(レトルト食品を用いて条件を一定にする)や被験者謝金を支出する。前年度からの繰越額(予算残額の端数として24,398円)も平成25年度の研究の消耗品代金にあてる。
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