研究概要 |
再生医療におけるヒトiPS細胞・ES細胞の臨床応用には,感染性を排除した大量培養法が必要である.しかしながら現在,主に使われ ているiPS細胞・ES細胞の維持培養法は,胎仔マウス線維芽細胞との共培養であり,また培養液中に動物由来物質を含んでいる.将来 的に,動物由来細胞・動物由来物質を排除する為,ヒト血清・フィーダー細胞の使用が試みられているが,ヒト由来物質による汚染が否定できない.そこで本研究では,これら外来因子を用いずに,物理的刺激を用いてiPS等幹細胞の未分化性を維持する培養法の開発を試みた. フィーダー細胞フリーで維持培養可能なマウスES細胞(CCE)を,底面がシリコーンの培養プレートに,LIF(Leukemia Inhibitory Factor)の非存在下で培養する際,10%,0.16Hzの引張り応力を負荷しながらの培養条件が最も未分化マーカーであるNanogの発現を維持させたことから,この培養条件が未分化性を維持するための物理的刺激として最適であると考えられた. しかしこの条件においてもNanogの発現はLIF存在下の培養に比べて50%以下であるため,引張り刺激のみでマウスES細胞の未分化性を維持することは 困難であると考えられた. 次に引張り刺激がNanog発現を誘導するメカニズムを検討したところ,引っ張り刺激依存性のAktのリン酸化がNanogの転写活性化に寄与していることが示唆された.この引っ張り刺激依存性Aktのリン酸はPI3Kの阻害剤やアクチン重合化阻害剤の添加で消失するため ,引張り刺激によるNanogの発現維持には,アクチン-PI3K-Aktシグナルが関与していることが推察された.これらの知見は,Horiuchi et al. Exp Cell Res, 318, 2012に報告した.
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