研究概要 |
本研究はマウスを用いて,後肢懸垂型ならびに固定型の廃用性萎縮に対する鍼刺激の萎縮抑制効果を確認したものである.研究1では後肢懸垂型筋萎縮モデルマウス(C57 BL/6, 8週齢,雄)を用いて対照群,後肢懸垂群,置鍼群,鍼通電群の4群で鍼治療による介入実験を行なった.実験筋細胞内サルコメア分解の経路では萎縮関連遺伝子E3ユビキチンリガーゼatrogin-1やMuRF1のmRNA発現は2週間の鍼刺激によって有意に抑制されることを証明した.研究課題2では,cDNAマイクロアレイを用いて約3万個の全遺伝子の中から,後肢懸垂ならびに鍼通電療法によって発現量が変動する標的遺伝子の網羅的探索を行った.本実験により細胞外基質の分解経路のMMPsが大きな役割を果たしている可能性があることや,免疫系を活性化する経路に第2次リンパ組織ケモカインであるCCL21などの標的遺伝子が鍼通電療法によって改善される可能性を解明することができた.研究課題3では進行性の固定型骨格筋萎縮に対するアプローチを可能とするため,針金を用いた螺旋ワイヤーによる固定方法を考案した.結果は後肢懸垂型筋萎縮に対する鍼治療の効果と同様の傾向が見られた.E3ユビキチンリガーゼatrogin-1の発現量は,鍼通電療法によって有意に回復した事から(p<0.05),鍼治療は固定型筋萎縮に対しても有効である可能性が示唆された.しかし,本研究はヒラメ筋の遺伝子発現のみを研究の対象としており,プロモーター解析を含めた上流のシグナル伝達経路の転写因子などの研究は行なっていない.今回の一連の研究の結果から鍼治療は重力免荷型ならびに不活動型固定による筋萎縮の抑制に有効であり,そのメカニズムとしてatrogin-1, MuRF1, MMPs,Akt1,TRPV4,CCL21などの標的遺伝子発現を変化させる可能性が示唆された.
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