研究概要 |
義歯機能は健康、長寿、QOLに直結しており、義歯機能を向上することにより、認知症や寝たきりを予防することが可能であると考えられる。本研究は、義歯機能と脳機能の関係を明らかにすることにより、義歯機能が健康や福祉に大きく関わる科学的根拠を示すことである。 鶴見大学歯学部附属病院を受診し、義歯の経過良好と診断された上下顎全部床義歯装着者17名(男性8名,女性9名,年齢67~92歳,平均年齢:79.1歳) を対象とし、使用義歯の咬合高径より3mm低く調節した複製義歯を製作した(3mm低下義歯)。使用義歯ならびに3mm低下義歯を装着し、咬合力(デンタルプレスケール:FPD-705, ジーシー, 東京)および頭皮上電位(ESA-pro 脳機能研究所, 神奈川)を計測した。頭皮上電位の計測は、1分間ガム咀嚼を行い、ガム咀嚼直前、直後に行った。頭皮上電位分布はESAM解析(心理的状態)、DIMENSION解析(シナプス・ニューロン機能)、NAT解析(脳の機能局在)の分析を行った。本学倫理審査委員会の承認を得て遂行された。 咬合力の評価では、3mm低下義歯は使用義歯より有意な咬合力の減少が認められた(p<0.05)。ESAM解析では、3mm低下義歯はガム咀嚼後にネガティブな感性が有意に増加し(p<0.05)、ポジティブな感性では有意に減少した(p<0.05)。DIMENSION解析の評価では、使用義歯の方がガム咀嚼後に頭皮上電位分布が滑らかになる傾向が認められたが、有意な差は認められなかった(p>0.05)。NAT解析による脳の機能局在評価では、使用義歯と3mm低下義歯で体性感覚野への影響が異なることが認められ、咬合高径が低下した義歯の使用は咀嚼機能の低下を招くと同時に、感性を低下させ、咀嚼による脳機能の活性化が生じにくい状況を引き起こす可能性が示めされた。
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