研究課題/領域番号 |
23650442
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
橋本 佐由理 筑波大学, 体育系, 准教授 (10334054)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 子育て / パートナーシップ / 妊娠期 / SAT法 / 育児不安 / 自己イメージ変容 / 集団介入 |
研究概要 |
母親への生き方支援が子どもへの良好な養育態度につながるといわれているが、その具体的な支援策が提示されていない点が問題であり、先行研究でも、集団への介入の難しさや持続効果のなさが報告されている。 そこで本年度は、母親の自己イメージの変容や育児ストレスの軽減につながる集団に対する短時間・短期間での効果的な支援法の開発を目指した。 乳幼児をもつ母親介入A群B群各11名ずつの22名に対して、A群は2011年10月、B群は11月に、気質コーチング法(宗像によるSAT気質コーチング法)と表情再脚本化イメージ法(キーパーソンの無条件に慈しむ代理顔表象を創造するイメージワーク)をヘルスカウンセリング学会公認資格を持つ2名が1回約2時間で行った。データは4回の質問紙調査(気質発現認知や自己イメージ、育児ストレスなどを測定する尺度で構成)から得て、各群における介入前と1ヶ月後や二ヶ月後のノンパラメトリック検定、B群をウエイティングにより非介入群とみなした二元配置分散分析により検討した。 その結果、各群の短期的効果は、A群では、自己価値感が一ヶ月後に有意に向上し(p=.044)、二ヶ月後まで持続した(p=.020)。また、育児不安感が二ヶ月後に有意に軽減した(p=.040)。B群では、家族からの手段的支援認知が一ヶ月後に有意に向上した(p=.006)。気質コーチング法で自己理解・他者理解が促され、対人関係上の対処行動が理解できたこと、表情再脚本化イメージ法で慈愛願望欲求が充たされ、本来の自己イメージへの気づきが得られたことにより、必要な自己報酬追求型の行動の見通しが立ち、自己イメージ脚本や家族からの支援認知、育児不安の改善が見られたと考えられる。 しかし、振り返りの意見を概観すると1回介入による限界も感じられた。もう一度介入プログラムの見直しをしつつ、介入研究を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2011年3月11日の震災により、調査のフィールドとして担当者と話を進め、計画をしていた水戸市が被災地となったため、生活の安全の確保などが重要課題となり、研究調査はできなかった。また、調査に関しては、23年度に調査をすることは、震災や放射能の恐怖による影響が強く出てしまうため、他地域においても調査研究を実施することは控えた。24年度に行う計画である。 また、震災後に外出を控えたり、子どもを保育に預けて講座を受けることに不安を感じる母親が増えたため、予備介入研究の開始も遅れた。少し落ち着いた9月に介入のフィールドを探し、10月より介入の実施となった。 予備介入研究は、予定通り実施できたが、調査研究ができず、その分の研究に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、23年度は、第1段階として、妊娠期の夫婦の気質と心理社会的要因の関連を質問紙調査により把握し、その結果を踏まえ、妊娠期の夫婦の生き方を他者報酬追求型から自己報酬追求型に変容させ、良好なパートナーシップを形成する新たな両親学級を提案することであった。しかし、調査研究の遂行が困難であったため、過去に横断的調査を行ったデータを再分析し、仮説モデルを立てながら、予備介入研究を行った。 しかし、実際には前向き調査による検証が必要である。研究期間が残り2年間あるので、24年度25年度を活用しながら、前向き調査研究と介入研究を並行して進めることで、23年度の調査研究の遅れを取り戻すことを考えている。 したがって、24年度以降は、前向き調査研究と、第2段階としての、研究協力の得られている複数の機関の妊娠中の夫婦に対して、提案した新たな両親学級で集団介入をし、介入前後およびフォローアップ調査により本介入法の効果を検討する。第3段階として、普及のために支援者の養成と養成した支援者による介入を試み、効果を検討するという方向で進めていく。そのために、研究分担者を1名追加すること、および、引き続き研究協力者の支援を得ることで、研究の遂行が可能であると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、妊娠期の夫婦の気質と心理社会的要因の関連を質問紙調査により把握する。研究対象は、現在、共同研究を進めているメンバーの専門機関の両親学級の参加者(n=400)である。研究方法は、自記式質問紙調査法により、自己イメージ、支援認知、気質、育児不安、産後うつ、虐待傾向などを学級参加時、出産後退院前、産後1ヶ月後、3ヶ月後、1年後に測定する。量的データは、平均値の差の検定や比率の差の検定、共分散構造分析を中心に分析する。 また、妊娠中の夫婦に対して、23年度に試みた支援法を改良し、新たな両親学級で集団介入をし、介入前後およびフォローアップ調査により本介入法の効果を検討する。本は、研究分担者および研究協力者の専門機関の両親学級の参加者の中から研究ボランティアを募集し、支援を実施するものである。非介入群を設けて効果を分析する予定である。介入効果測定のための自記式質問紙調査は介入前、介入直後、2ヶ月後、6ヶ月後、1年後(心理特性、メンタルヘルス、ストレス源認知、育児不安、虐待傾向など)に行う。質的データとして、参加者の発言などを音声録音し、そのデータも用いながら介入事例を分析する。 現在の両親学級においては、知識の伝達を主とした内容によるものがほとんどである。しかし、育児不安や育児自信感は知識の伝達では変化することは期待できない。本介入法は、知識の提供だけでなく、本人の自己イメージ脚本を変容し、感受性の認知を変容することを通して、育児不安や育児自信感への支援をしようとする意義のある研究である。
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