研究課題/領域番号 |
23650451
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研究機関 | 広島経済大学 |
研究代表者 |
榁田 智子 広島経済大学, 経済学部, 准教授 (10456585)
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研究分担者 |
杉浦 裕晃 愛知大学, 経済学部, 准教授 (60345858)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 企業の社会的責任(CSR) / 日本型雇用システム / ワークライフバランス / 労働経済学 / 職務設計(ジョブデザイン) / ライフスタイル / 労働CSR / 人的資源 |
研究概要 |
本研究は、労働市場の実態と企業内制度との乖離に注目し、その現状を是正すべく労働に関わるCSR(企業の社会的責任)の方向性について検討しようとするものである。 人事評価制度の妥当性に関する議論の活発化や雇用形態の多様化といった環境の変化が、労働者自身の働き方、そしてそれを支えるべき企業内制度にいかなる変化を要請するのかという点について考察した。その結果、今日の雇用環境と企業システムの非整合性は、現行の評価制度の妥当性が揺らいでいることに起因していると考えられる。 労働者のモチベーションを高め企業の生産性を引き上げることは、CSRにおける最も本質的な要素の一つである。日本型雇用システムの要である長期雇用と年功賃金が、現在もインセンティブシステムとして有効に機能している側面は依然として大きいが、一方でこのようなシステムのみでは、その労働の質や企業への貢献を正しく測定できないような雇用形態や職務が目立つようになったことも事実である。人材のグローバル化やワークライフバランスの尊重という時流の下でこの傾向が強化されることは必至であり、今日の雇用環境に見合った人事システムの構築が求められる。 本年度はインセンティブシステムを見直す前提として、労働の質を正しく評価するための手続きについて考察した。長期雇用の下では企業競争力の源泉となり得た「仕事の幅」という概念に注目し、多様な雇用形態の下で仕事の幅の広さ・狭さが人事システムにどのように影響しているのかについて検討を行った。労働市場の変化を仕事の幅という尺度を用いて捉え直すことにより「継続的雇用によって労働者のキャリア形成を促す上では、結果として仕事の幅に一定の曖昧性が残る可能性があること」、「ジョブデザイン(職務設計)とその精緻化が、長期雇用が崩壊しつつある今日の日本における人事評価制度を議論する上で必要条件となること」が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が本年度の実施計画としていた「人材活用におけるCSRの実施に関する基礎分析」については、文献レビューやデータ整理を通して、CSR施策と働き方・キャリア形成の現状とのミスマッチを明らかにすることが出来、当初目標としていたレベルをクリアしたと考えられる。 研究分担者が本年度の実施目標としていた「雇用および人材活用の多様化に関する理論的・実証的分析」についても、日本の雇用システムに関する既存研究で言及される機会の少なかった、ジョブデザインの重要性を明らかにすることが出来、当初目標としていたレベルをクリアしたと考えられる。 これらの成果を共著論文として発表することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
雇用形態の多様化、多様なキャリア形成パターンの出現およびワークライフバランス尊重の時流といった、労働環境の変化に鑑みた人事管理システムの構築について、CSR論の視点から検討する。とりわけCSR実践の障害となりがちなミクロレベルの要因(例 組織の自律的調整機能の麻痺、マンパワー)とその克服方法に注目しながら考察を進める。(主に研究代表者) 平成23年度内に明らかにしたジョブデザインの重要性とその実践課題を前提とし、労働市場の現状とインセンティブシステムとしての日本型雇用システムとのミスマッチの克服について、CSR論と労働経済学という複眼的な視点から政策提言することを目指す。(研究代表者、研究分担者) 理論的・実践的妥当性の両面を充実させるため、研究成果については特徴の異なる複数の学会ないし研究会での報告を心がけたい。また成果の一部は学術雑誌に投稿することを予定している。(研究代表者、研究分担者)
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次年度の研究費の使用計画 |
書籍入手のための備品費用(図書購入費)を使用する予定である。既存の経済学・経営学の枠組みに止まらず、社会科学と生活科学の橋渡しとして位置付けることが出来るような成果を達成するためにも、幅広い分野の和・欧文献の購入を予定している。 研究代表者と分担者の勤務地が遠距離のため、打ち合わせのための旅費を使用する予定である。また、本研究の成果については当該分野の専門家をはじめとして幅広い分野の研究者からその実践可能性について意見を伺いたく、そのための調査・研究旅費の使用を予定している。(以上全て研究代表者、研究分担者)
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