研究課題/領域番号 |
23650453
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
朝比奈 はるか お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 研究院研究員 (30599197)
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研究分担者 |
都甲 由紀子 大分大学, 教育福祉科学部, 講師 (40586195)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 雲南省 / 少数民族 / 伝統知識 / 健康食品 / 薬用植物 / ラック / 刺繍 / 天然染料 |
研究概要 |
23年度の秋季、二週間の民族市調査により、植物資源入手およびその現地でのサンプル処理を行った。得られた植物エキスサンプルについて、抗酸化物質探索スクリーニング(DPPHラジカル補足能測定、脂質酸化変成抑制活性測定、ポリフェノール定量など)を実施した。さらに伝統薬および食品の効能の調査を拡大する目的で、抗糖尿病、および抗リューシュマニア原虫症の活性についても有効性を検討した。 13種のサンプルのうち、緑茶並みにポリフェノールの含有量が多いものもある。しかしポリフェノール含量の低いものにも抗酸化活性が高いものがあった。例えば、ポリフェノールとDPPHは相関の関係にないものもあった。Bupleurum の仲間についてはメインの物質の構造が判明し、当該familyの既知物質であることが決定できた。しかしながら、この部分に抗酸化活性あるいは他の生理活性があるかについては、少量植物体からの出発のため、精製物そのものが生理活性検索にまわすには不足している。予測どおりの結果をうけて、予定通り25年度の植物調査に反映させることとしている。 Boenningの仲間については、脂質抗酸化能力が高いため、TLCで分離した物質について、アッセイを行っている。これは特に少ないため、物質の構造を決定するにはいたらないと考えられるので、活性が確認され次第、25年度の収穫予定とする ラックカイガラムシの分泌物であるスティックラックについては、赤色色素成分の有効利用法を調べるために生産工場を視察する予定であったが、訪問後に雲県の工場が閉鎖されていて実現できなかった。しかし露店において薬としてスティックラックが販売されており、その成分をまず抗酸化物質探索およびその他二種の実験に供したが、ポリフェノ-ル無し、DPPH活性無し、抗脂質酸化力無し、抗リューシュマニア活性無し、PECK効果なしという結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である薬用あるいは健康食品の植物については、生薬を含めて予定(20-30)より少ない13種のサンプルを得た。サンプル集めは想定より難しいことが現地調査で判明した。その理由は、山地が開墾により荒れ、野生植物を使う必要のある伝統薬や健康食品の原料植物の収穫がが困難になりつつあることと、近代薬が流行りつつあるため人気が低下しているためと推測される。しかしながら、抗酸化物質アッセイでは有効なデータを示すものがいくつか出てきているため、23年度予定の一次アッセイとしてはほぼ順調に進展していると考える。中国の研究所で標本館スタッフにより形態による同定は終えることができたため、DNA実験は今回は行わずに学名があきらかになった。ラックカイガラムシの工場がすでに閉鎖されていることが現地調査の際にはじめて明らかとなった。どこまで天然染料を使わなくなってきているのかについては、不明。24年度に再度調査して雲南省の中西部にあたらしい候補工場を探し、調査を試みる予定である。またラックによる染色実験が終了しなかった点でも計画はやや遅れている。ただし、染料については、藍染め、草木染めについても現地で工場調査することができた。また、あらたにイ族の民族衣装とその刺繍について聞き取り調査および市場調査を行うことができた。サンプルも収集できた。刺繍については研究計画の時点では想定していなかったが、生活科学における貴重な伝統知識の一つとして、ひきつづき技法や模様の意味について解明することとし、1年目の進行度としては現在適当であると考えられる。刺繍の施された衣装と非常にむすびつきのあるハレの場での曲や歌についても情報収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
植物に関しては数を除いて申請時の予定どおりの結果が得られつつあり、次は春季にでまわる薬用植物、健康食品などをさがし、昨年と同様に現地で同定およびMeOHエキス作りをおこない、日本で生理活性物質探索スクリーニングにかける。23年度に予定より少ない数のサンプルしか収集できなかったことについては、24年度には少し異なる地域に足を伸ばし、民族市や、農村地帯の少数民族の村へ調査を進める。さらに年度末までに、25年度に予定している大量のサンプルを集める候補を絞ることとする。ラックの現地調査も依然行いたいが社会情勢の変化により調査を進められない可能性も考えられるため、イ族の刺繍のテーマに関して技術の習得や過去の歴史をふくめた現地調査を進める予定とする。実験室ではラックによる染色実験を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
試料は11月になってから中国より持ち帰ったため、時間的制約があり実験の一部を24年度に延期した。そのため、謝金分と試薬代が残り、また中国調査用のガイド代は、英語の通じる准教授らが案内してくれたことから未使用となった。現地での郊外への旅程も現地実験室の日数を確保するために短くなり、剰余金が生じた。 24年度は、できるだけ別の地方、特に農村地帯にも足をのばし、今回少なかった収集サンプル数を伸ばすことを目標としており、日数が当初の24年度計画書(10日)よりも長くなる可能性が高い。そのため、本年度の剰余金は主に旅程が伸びる分に充てる予定である。また24年度に繰り越したいくつかの実験の補助者への謝金、試薬代などにも充てる予定である。 今年度の予算については、計画通り実験・資料整理補助者などの謝金や、実験試薬、共通機器使用料、学会参加費用、そしてメインとなる中国調査関連費用として使用予定である。
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