研究課題/領域番号 |
23650453
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
朝比奈 はるか お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 研究院研究員 (30599197)
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研究分担者 |
都甲 由紀子 大分大学, 教育福祉科学部, 講師 (40586195)
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キーワード | 雲南省 / 伝統知識 / 健康食品 / 薬用植物 / 天然染料 / 刺繍 / 少数民族 / 照葉樹林文化圏 |
研究概要 |
春季、二週間の雲南省民族市調査により、植物資源やラックスティックの入手およびその現地でのサンプル処理を行った。風慶、雲県、昌寧、蒙自、楚雄、元陽、石屏の不定期な民族市や、常設の野菜市場をまわった。 得られた植物のなかで、昆明植物研究所で同定可能であった13種について、メタノール抽出物を得、抗酸化物質探索スクリーニング(DPPHラジカル補足能測定およびビタミンE含量測定)を実施した。MSによるビタミンEの測定に関しては、23年度の15種のサンプルについても新規に実施した。DPPHアッセイ法により見出された抗酸化能について、トロロックス換算では1mg/ml濃度のメタノール抽出サンプルにて測定したところ、24年春のサンプル13種中、二種を除いてすべてにトロロックス等量20mg/ml以上の活性が見出された。この抗酸化活性の正体を絞るために、第一歩としてビタミンEの含量を測定した。その結果、4属4種にαトコフェロールが見出された。また23年秋のサンプルからも、2種の植物に一定以上のαトコフェロールが検出された。現在、他の抗酸化物質との関係を解析中である。 ラックカイガラムシの分泌物であるスティックラックについては、赤色色素成分の有効利用法を調べるために生産工場(双江県林業化工場)を視察することができ、スティックラック、精製した色素(ラッカイン酸)や樹脂などのサンプルを分譲して貰えた。調査の結果、現地においてラッカイン酸(ラック染料)が繊維への染色に用いられた伝統や現在用いている様子は確認できなかった。イ族の刺繍について、大姚において手刺繍による手工芸品の製品を生産している工房で聞き取り調査をして技術指導を受け、あらたに線を描く部分は特殊な技法を用いていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず食品、伝統薬からあたらしい機能性食品を捜すテーマの進行についてであるが、前年度と同じく、薬用あるいは健康食品の植物について10数サンプルを得た。滞在出来る日数には限りがあるなかで、もっとも時間のかかる植物の同定を滞在中にこなすことができたことが、この研究を計画通りに運ぶ大きな要因となっている。これには、昆明植物研究所の協力が大きい。そしてこの同定を出発点として、前年度と今年度、秋と春に集めたサンプルの抗酸化能スクリーニングが順調に行われてきた。トロロックス換算での抗酸化能は多くのサンプルに見出され、当初目的としてきた抗酸化物質探索一時スクリーニングとしての一定の成果があった。また今回α-トコフェロールの含有量についても、試料を大量に集める以前に行える分析法としてMSを使うことで測定が実現した。 ラッカイン酸については、スティックラックからの水抽出液を他国産のものと比較した。紫外可視分光光度計で測定し、吸収スペクトルを得た。一方刺繍については、聞き取り調査をして技法の指導を受けた。イ族の刺繍には自然崇拝の宗教性が現れているとのことであった。技法については、枠を使わずに布の裏にボール紙や芯地などを貼って張りをもたせてステッチすることが分かった。主にサテンステッチとバックステッチに似た技法を用いている。線の部分はバックステッチのような縫い方ではあるが、一目前の針目の糸を割って縫い進めるという技法であった。
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今後の研究の推進方策 |
植物資源に関しては、今まで一次スクリーニングでみいだされた抗酸化能が何に起因するかを解析してゆくことが必要である。現在収集済みの試料は100g(生重量)から抽出・乾固して得られた物であり、微量であるため、この先、計画的に民族市を再訪して見込みのある植物試料を今後は数KG単位で収集する必要がある。その際、大量収集の候補を数種にしぼり、現地でいくつかの市をあたり、種が混ざっている可能性も考慮して、複数箇所から植物を集める必要がある。入手後は基本となる同定作業から始め、まずは抗酸化活性の再現性の確認から進める予定である。 ラッカイン酸については、先進国が食品添加物や口紅の色素として輸入しているとのことであり染色に用いている例を確認できていないが、入手したラッカイン酸の分析、染色実験を行う。刺繍についてはさらにミャオ族の刺繍技法も調査し、これまで調査したイ族の刺繍の特徴や模様の意味、技法をまとめ、比較する予定である。少数民族の人々にとっての刺繍の意味についても調査を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では次年度は植物試料担当の朝比奈のみがサンプル入手のために3度目の現地調査を行う予定であったが、天然染料に関する情報収集の過程で、照葉樹林文化圏に共通する可能性の高い刺繍に関するイ族、および苗族の伝統技術について、さらに調査を行う必要性がでてきた。そのため、染色実験などを最終年度にまとめて行う計画とすることで今年度残した余剰金を加えて、都甲も3度目の現地調査を行う予定である。 その他は、次年度の予算については、計画通り実験、試料整理補助者などへの謝金や、実験試薬、共通機器使用料、学会参加費用、そしてメインである雲南省調査関連費用として使用予定である。
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