研究課題/領域番号 |
23650459
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
倉林 徹 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90195537)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | テラヘルツ分光分析 / 繊維種識別 / 獣毛繊維 / 植物繊維 |
研究概要 |
本研究はテラヘルツ分光法を用いた繊維の識別方法を開発し、新規かつ信頼性の高い品質表示の鑑別法を確立することを目的としている。本研究で着目したのは、これら繊維は分子量の大きな有機物で構成されており、高分子材料の骨格振動やねじれ振動に加え、水素結合、分子間相互作用や結晶の格子振動などの低エネルギーの振動を用い繊維の種類を識別する方法である。 本研究で用いたテラヘルツ分光器は、GaP結晶中での近赤外光の差周波発生によるものであり、発生するテラヘルツ波は広帯域性(0.5~6.2THz)と高出力性を合わせ持つ。各種繊維試料は、凍結粉砕により微粉末化した後にポリエチレン粉末と混合しペレットを形成し測定を行うことによって定量的分析を実現した。特に、本年度はセルロース由来の繊維識別に着目した。綿は結晶化したセルロースをその主成分としており、結晶化したセルロースに起因した吸収ピーク(2.1、3.2、4.3および5.2 THz)が観察された。これに対し、セルロースを化学的に分解せずに精製するリヨセルプロセスによって形成されるテンセル(商標)では、2.2、3.2、4.5および5.5 THzに比較的ブロードな吸収ピークが観測された。また、化学的反応を伴って形成される銅アンモニア法レーヨンであるキュプラ(商標)やブナパルプからつくられるポリノジックであるモダール(商標)では4-6 THzの広範囲においてなだらかな吸収が観測された。本研究の成果によって、同様の成分からなる繊維種であっても、その分子間結合状態や結晶構造の違いを高感度に検出でき、これが繊維種識別に有効な方法であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はテラヘルツ分光法を用いた繊維の識別方法を開発し、新規かつ信頼性の高い品質表示の鑑別法を確立することを目的としており、植物由来および獣毛に代表される天然繊維と、再生繊維および合成繊維における分子間結合や結晶構造の違いを高感度に検出することを目的としていたが、対象となる繊維種が広範囲にわたるため、本年度は植物由来の天然繊維と植物由来の再生繊維に範囲を限定し、その分子間結合状態や結晶構造の違いを高感度に検出できることを、実験的に初めて確認した。対象となる繊維種を限定したものの、テラヘルツ分光分析によって、同種成分でありながら分子間結合状態や結晶構造の違いを高感度に検出できたことは学術的価値も高い成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では研究対象となる繊維種を当初予定されたまでは増やさず、繊維中の分子間結合状態や結晶構造の違いを反映したテラヘルツ領域に発現するスペクトルの違いを定量的に識別することを目指して、繊維種のテラヘルツスペクトルに与える各種パラメータの抽出と測定条件の最適化を行い、さらに数値解析の手法を取り入れることによって、新たな繊維種識別法を見出す。
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次年度の研究費の使用計画 |
繊維試料の粉砕に関わる消耗品、分光分析を実施するために必要な消耗品、および得られた成果の国際会議発表をおこなうための旅費等に使用する予定である。
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