研究課題
テラヘルツ分光分析法を用いて各種繊維のスペクトル分析を実施し、各種繊維に特有のスペクトルがテラヘルツ領域に発現することを確認した。分析にあたって、繊維試料を凍結粉砕によって均質化し、ポリエチレンを基材とする所定濃度の繊維種の測定試料を作製し、0.5-6 THzの範囲でテラヘルツ分光分析を行うことで、繊維判別に有効と思われるスペクトル情報を見出した。分析対象となった試料は、不当表示で問題となっている、カシミヤ原毛とその類似の獣毛(ヤクやメリノ種)の識別に関する研究と、セルロース系天然繊維とセルロース系再生繊維にセルロース結晶構造識別に関する研究である。本研究によって、これまの分光法で見過ごされてきた高分子の水素結合、分子間結合や内在する結晶構造の格子振動、分子内骨格振動などの低エネルギー振動を検出し、繊維を構成するポリマー高分子の結合状態の検出や、加工工程によって生じる繊維中に内在する微結晶の構造変化の検出を可能になったものと考えられる。例えば、獣毛の主成分はケラチンタンパク質で構成される紡錘型細胞(コルテックス)であり、直径数μm、長さ100μm程度の細胞群が規則的に配列している。テラヘルツ分光分析では、コルテックス構造間の相互結合に起因した、比較的マクロな構造の結合モードを検出し、獣毛種別による違いが検出されたものと考えられる。またセルロース由来の植物性繊維や再生繊維においては、繊維種固有のセルロース結晶の振動モードが検出されているものと考えられる。本研究によって、定性的ではあるが新規な繊維判別法の可能性が示された。今後は、各種繊維のテラヘルツスペクトルを主成分回帰法やクラスター分析等の多変量解析を用い、数学的プロセスによって繊維種を識別する手法の確立を目指す。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
37th International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves, Conference paper
巻: Fri-A-5-5 ページ: 1-2
巻: Thr-Pos-63 ページ: 1-2