研究課題/領域番号 |
23650465
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
湊 健一郎 名城大学, 農学部, 准教授 (10341728)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 機能性多糖 / 食用キノコ / 免疫調節作用 / マクロファージ / 食品の物性 |
研究概要 |
本研究では,特にわが国で人気があるナメコについて,その分泌物(粘性ゲル状食品)およびナメコ子実体(一般食品)由来多糖の免疫調節作用について,マクロファージに対する活性化および分化への影響を重点的に調べた。マクロファージは単球から分化するが,最近様々な分化型を示し,免疫系の初期段階において重要な役割を果たすことが明らかになりつつある。上記二つの試料はともに,特に炎症型と呼ばれる活性型のマクロファージ(M1)への分化誘導能を示した。このことは,ヒト由来単球細胞株THP-1を用いたin vitro実験,およびBALB/cマウスへの摂食実験においても同様の結果を得た。これらのことはまた,機能性多糖を取り巻く環境(食品の形態)が異なっていても,その作用自体は変化しないということを示唆している。つまり,咀嚼・嚥下困難者用食品としても利用されているゲル状食品においても,機能性多糖の効果が期待できると考える。そのため,国民に対する健康増進・維持に対する啓蒙活動において,本実験の結果は訴求性が高いと考えている。 多糖類は食品における増粘安定剤として,広く用いられている。このため,本実験で用いたナメコ試料を従来の安定剤の代わりとして利用することを目的とし,食品のゲル物性に与える影響も調査した。これは本研究の重要な目標でもある,市場への供給に耐えうる食品開発を見据えてのことである。本実験では,寒天ゼリーを基本試料として採用した。ナメコ分泌物及び,ナメコ子実体熱水抽出物はともに,添加濃度の増加により破断強度を増強させた。この結果は,咀嚼・嚥下困難者用食品の開発における課題点を明らかにした。つまり,いかに「食べやすい」食品にするための適量や,また,どれくらいの期間食べ続ける必要があるのかを,明らかにする必要がある。これらの点の解決がまさしく,次年度に立案しているものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては,異なる物性の食品を使って,機能性多糖の生体内での免疫調節作用をThバランス(Th1/Th2)の維持(免疫系のリンパ球細胞であるヘルパーT細胞が適正に分布されているかどうか)を指標に調査する計画であった。「研究実績の概要」でも記載したが,おおむね順調に進行している。動物実験においては,Th2優位にバランスが傾いているBALB/cマウスを用いた結果を得た。またTh1優位の場合の調査については,培養細胞株であるTHP-1細胞を用いて,これをTh1優位の際の状態と同様となる分化型のマクロファージに分化させたin vitro実験系での効果を調べた。ともに,生体内の免疫担当細胞であるマクロファージやリンパ球の活性を介した免疫調節作用が認められており,機能性多糖は食品中というマクロな環境下でも,その機能を発揮することが示唆された。 上述のようにおおむね順調に進行しているが,ここまでの結果は分泌サイトカインのタンパク質レベルの解析結果である。計画では遺伝子発現レベルの解析も組み込まれており,これについての現在の状況は,まずは回収したサンプル(組織)を凍結保存しており安定し多状態で保存できている。各種対象サイトカインのうちIL-1について,プライマーの設計をおこなっており,これが完了次第速やかに,すべてのサイトカイン遺伝子の発現解析を実施する。この点に関して,すでにタンパク質レベルで調査しているため,遺伝子解析時期が研究期間の後半にずれ込んだとしても,問題ないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において平成24年度の実施実験内容は,当初の実験計画に則り,動物実験を中心的に実施する。本年度までに,組織・細胞内に発現したサイトカインの遺伝子解析を全て終了するというのが,当初の計画であったが,前述の進捗状況の説明の通り,一部サイトカインの遺伝子解析において,プライマー設計の遅延という状況が生じたため,平成24年度では,この部分を並行して実施する。このことは24年度の調査項目と同時測定が可能であるため,計画の変更を伴うものではない。また,この測定項目に使用する費用を,今年度計上した予算から,平成24年度に繰り越して請求することとした。 したがって,当初の実験計画に従い,平成24年度は異なる年代の実験動物を用いて,機能性多糖の免疫調節作用について,マクロファージおよびリンパ球の分布状態,産生サイトカインのタンパク質・発現遺伝子レベルでの解析をおこない検討する。また食品形態のうち飲料として利用した場合どうなるのか,この点についての調査は当初は予定していなかったが,固形物としての作用には顕著な差がみられなかったため,新たに実験計画に組み入れていく予定である。それらの結果を総合して,機能性多糖を食品として評価し,さらには幅広い年代や健康状態の人達に対する有用性を示すことを目標とする。このことによって,わが国民の健康維持と食品に対する関心を高めることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の実験計画は,当初の予定通り以下のように遂行する。 異なる週齢の実験動物(マウス)に,ナメコ分泌物,子実体,および抽出物を溶解した飲料を摂食させて,免疫調節作用を調査する。調査項目は,マクロファージおよびリンパ球の分布状態,産生サイトカインのタンパク質・発現遺伝子レベルでの解析とする。また,今年度実施完了していないサイトカイン遺伝子発現パターンの調査について,繰り越した研究費を充当して実施する。
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