研究課題/領域番号 |
23650469
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
中川 洋 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (20379598)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 食品と貯蔵 / テクスチャー / 中性子 / 水和 / ガラス |
研究概要 |
乾燥食品は、水分活性値を下げることで腐敗の原因となる微生物の増殖を抑えるとともに、ガラス状態にすることで食品の安定性を向上させている。食品のガラス化は食感とも関わり、食品の品質を決める重要な要因となる。しかし、食品中の水の物理化学的状態が、水分活性値やガラス転移とどのように関連しているかは不明な点が多い。そこで本研究では、中性子散乱実験により食品タンパク質中の水の動的挙動を調べ、水が食品の水分活性やガラス転移に与える影響を明らかにすることを目的とした。研究を通じて、中性子散乱実験による新たな食品分析法を確立するとともに、水が食品と相互作用することによって発現する食品機能特性(保存性と食感)の分子論的基礎を確立することを目指した。 食品中の水は一般に、食品との結合が弱い「自由水」と、結合が強い「結合水」に分類され、食品の腐敗の原因となる微生物は自由水を利用することで増殖すると考えられている。本年度は、蛋白質の水分量を段階的に変えながら中性子散乱実験を行った。まず、軽水の水和蛋白質と重水の水和蛋白質を用いて実験を行い、その散乱の差から蛋白質表面の水和水由来のシグナルを取得することに成功した。このデータを用いて、水の運動性の変化が、水分量に対して閾値(h=0.37 g D2O/g protein)を持つことを明らかにした。また蛋白質のガラス転移を引き起こすのに必要な水分量は上記の閾値と同じことを見出し、蛋白質のガラス転移に必要な水分量の特定に成功した。また水の運動性が高いほど水分活性値が高くなるという定性的な結果を得ている。これら成果は、今後、水分活性測定や動的粘弾性測定と結びつけることで、食品の水分活性値やテクスチャーを決めている水の物理化学特性を解明する手がかりとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、水分活性値を決める水の動的挙動の解明のための第一段階として、(1)食品中の含水量を段階的に変化させたときの水分子の動的挙動変化の解析、(2)ガラス転移を引き起こす水分量の特定、の2点を目的としていた。本年度の研究成果は、これらを達成している。またこれら結果と合わせて、水分活性値と水和水ダイナミクスが関連しているという定性的な結果も得ている。これは、当初の計画以上に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、自由水の動的挙動と水分活性の関係の解明、ガラス転移における結合水と自由水の動的挙動の変化の解析、食品蛋白質の粘弾性特性と水の動的挙動やガラス転移との関係の解明、を目指して研究を進める。そのために、中性子散乱実験に加えて、水分活性測定や動的粘弾性測定を行う計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
設定した研究目的を達成するために、蛋白質関連実験の消耗品や、水分活性測定や動的粘弾性測定に関わる物品などを購入する。また中性子散乱実験に関わる試料セルなどの消耗品を購入する。また関連学会や研究会などの旅費に使用する計画である。
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