研究課題/領域番号 |
23650469
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
中川 洋 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (20379598)
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キーワード | 食品と貯蔵 / テクスチャー / 中性子 / 水和 / ガラス |
研究概要 |
乾燥食品は、水分活性値を下げることで腐敗の原因となる微生物の増殖を抑えるとともに、ガラス状態にすることで食品の安定性を向上させている。食品のガラス化は食感とも関わり、食品の品質を決める重要な要因となる。しかし、食品中の水の物理化学的状態が、水分活性値やガラス転移とどのように関連しているかは不明な点が多い。そこで本研究では、中性子散乱実験により食品タンパク質中の水の動的挙動を調べ、水が食品の水分活性やガラス転移に与える影響を明らかにすることを目的とした。研究を通じて、中性子散乱実験による新たな食品分析法を確立するとともに、水が食品と相互作用することによって発現する食品機能特性(保存性と食感)の分子論的基礎を確立することを目指した。 本年度は、重水素化蛋白質を用いて、水和水の低エネルギーダイナミクスを中性子非弾性散乱で測定した。実験にはフランス・ラウエランジュバン研究所のIN6分光器を用いた。その結果、水和水の低振動スペクトルを取得することができ、約6meVに水の並進バンドが存在することを示した。現在、蛋白質の低振動スペクトルとの関連性の解析に着手している。また中性子スペクトルをより詳細に解析するために、分子シミュレーション計算を援用した実験データの解析を行った。これにより、蛋白質表面の水和水の水素結合の寿命や水和構造を計算し、実験データと合わせることで、水分量を段階的に変えたときの蛋白質のガラス転移と水和水のダイナミクスが、水素結合を介してカップルしていることを示した。これら成果により、食品の水分活性値や粘弾性特性に関わる水と蛋白質の相互作用の一端を解明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、重水素化蛋白質を試料に用いた中性子非弾性散乱実験の実施に成功し、より精度良く蛋白質水和水の中性子散乱スペクトルを取得することができた。水和水の中性子非弾性散乱実験において、順調に研究計画を進展させることができた。この成果により、水分活性値や粘弾性特性を決める水の動的挙動の詳細な解析を可能とし、水和水の並進運動とガラス転移との関係性の解析に着手することができた。また水和蛋白質の分子シミュレーションに着手し、中性子非弾性散乱実験データのより詳細な解析を行った。これら一連の成果は、水分活性値と粘弾性特性を決めるミクロな分子運動情報の解析を可能にした。その結果、水和水の水素結合ダイナミクスが蛋白質のガラス特性に関係していることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に取得した重水素化蛋白質の水和水の中性子非弾性散乱実験データの解析を行い、ガラス転移と水和の関係の解明に取り組む。分子シミュレーションによる水和水の水素結合ダイナミクスの解析から、水和水と蛋白質の間のダイナミックな相互作用の解析に取り組む。様々な水分状態での蛋白質でこれらの解析を行い、これら結果と水分活性測定や粘弾性特性の水分量依存性の関係性の解析を行う。 最終年度となる次年度は、蛋白質水和水の構造や動的挙動を総合的に解析し、水分子の構造ダイナミクスとガラス転移との関係性や、水分活性値と粘弾性特性の関係性などを調べ、食品の水分活性値や粘弾性特性を決める水の物性の解明に取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
設定した研究目的を達成するために、蛋白質関連実験の消耗品や、水分活性測定や動的粘弾性測定に関わる物品などを購入する。また実験データ解析に必要な機器を購入する。また関連学会や研究会などの旅費に使用する計画である。
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