本研究では、疾患特異的な腸管栄養素センシング機構の解明と特殊栄養食品の開発基盤の確立を目的とし、腎不全時の腸管変動遺伝子の網羅的解析による統合的データベースの構築、疾病予防または治療の標的となる疾患特異的な栄養素センサー遺伝子群の同定を試みた。生活習慣病モデルにおける腸管栄養素センサーの同定として、腎不全、糖尿病モデルを用いトランスクリプトーム解析により構築した腸管遺伝子データベースをもとに、平成24年度は、疾患進展の予防に有効な栄養成分、特にミネラルの一つであるリンに着目した。実際、腎不全モデル動物へのリン制限食の投与は、カルシウム代謝異常や異所性石灰化の発症を予防し、さらに興味深いことに腎性貧血の予防にも有効であることを見出し。これら研究成果は、平成24年米国腎臓病学会で報告した。さらに、リン制限食は、腎不全で生じる亜鉛欠乏にも抑制的効果を有し、実際、腸管の亜鉛トランスポーターの発現変動を確認した。糖尿病モデルにおいては、腎臓でのビタミンD異化酵素CYP24遺伝子の発現亢進により、血中活性型ビタミンD濃度の低下が生じることを見出しただけでなく、選択的スプライシングにより産生されるデコイ型CYP24タンパクが増加することも見出した。糖尿病モデル動物においてもリン制限食がビタミンD代謝異常を改善する効果を観察した。以上のことから、本課題研究により腎不全および糖尿病モデル動物を用いた腸管栄養素センシング機構の解析により、疾患の進展予防に効果を有する栄養素を特定することができ、特殊栄養食品の開発基盤を確立することが可能になった。
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