研究課題/領域番号 |
23650486
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
三好 規之 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (70438191)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 炎症 / バイオマーカー / 質量分析 |
研究概要 |
無菌飼育装置や次世代シークエンサー等の技術の進歩に伴い、腸内細菌叢が様々な生体調節機能の中心的役割を担っていることが明らかになりつつあり、腸内細菌叢の変化は、肥満やメタボリック症候群だけでなく現代の3大死因である、がん・心疾患・脳血管疾患、さらに痴呆など多くの病気と関係していることが指摘されている。その一つの理由として、これら疾患の共通リスク要因として炎症があり、腸内細菌叢の変化に伴う炎症が様々な疾患を惹起・進行・重症化させることが示唆されているからである。そのため腸内細菌研究は今後10年の最もホットな研究分野の一つとして注目されている。 腸内細菌研究は1919年のLeewenhoekの腸内菌の発見に始まったとされているが、個人差が大きい、食事など様々な環境要因に強く影響を受けるし、菌種のgenotypeも常に動く変動の激しい集団である。さらに、多く(75%以上)の菌が培養困難・不可能であること等から、腸管環境の変動を分析するには、腸内細菌叢のメタゲノム解析により特定の菌種を同定するよりも、腸管内の代謝物あるいは特定のパターン化された分子群を同定することの方が、コストも安く、より広範囲な応用が可能である。 以上の事より本研究では、肥満や糖尿病などのメタボリック症候群様症状を示す生活習慣病において、近年重要視されている慢性的な軽度の炎症レベルを評価できるバイオマーカーの探索・同定を目的とし、盲腸・大腸内容物、糞便の炎症マーカーを探索し、血中の炎症性サイトカイン等のバイオマーカーよりも早期に且つ正確に、また非侵襲的に評価できる分子の同定を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界中で罹患率、罹患者数が共に増加している糖尿病の腸管内起炎性分子の探索を行う目的で、まず、糖尿病マウスKK-Ayとその対照マウス(C57BL/6)を高脂肪食あるいは普通食の自由摂取にて24週間飼育した。各マウス盲腸内容物のアセトニトリル抽出画分をUPLC-TOF/MS分析に供し、得られたMSピークの主成分分析(PCA)を行った。その結果、食餌含有物(高脂肪)の影響というよりはむしろ糖尿病の進行具合に依存した盲腸内容物の成分プロファイルが得られた。また判別分析(OPLS-DA)より、糖尿病群特異的な化合物(MSピーク)の抽出にも成功したが、化合物の同定には至らなかった。 また、食生活の欧米化や、それに伴う炎症と強い関連がある大腸発がんを引き起こす化合物の探索を目的として、大腸発がんリスクの一つである飲酒の影響に注目し、飲酒マウスの糞便分析を行った。ここでは飲酒マウスの腸内細菌が生成する成分のうち炎症や発がん性が指摘されているα-ジカルボニル化合物の網羅的解析を行った。糞便抽出物中のα-ジカルボニル化合物をo-フェニレンジアミンで誘導体化し、GC-EI/MSで分析したところ、特異的な開裂パターンを示すα-ジカルボニル化合物を網羅的に検出することに成功した。検出されたα-ジカルボニル化合物は有意ではないものの、飲酒に依存した量的変動が認められた。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、糖尿病モデルマウス盲腸内容物やアルコール摂取マウス糞便の有機溶媒や緩衝液を用いた成分抽出を行った。調製したサンプルを質量分析に供し、得られたMSイオンピークリストの解析を行ったところ、疾患モデル群特異的なMSイオンピークが複数抽出されてくることが分かった。そのうちいくつかのMSイオンピークについては化合物の同定に成功した。本年度は、まず質量分析における標的分子の取りこぼしを抑える目的で詳細なサンプル抽出条件の検討を行う。具体的には、すでに採取してある生体試料を用い、酢酸エチル、アセトニトリル、80%メタノール、リン酸緩衝液(pH7.4)を用いた抽出操作を行う。場合によっては誘導体化試薬を用いた試料の誘導体化を行う。これらのサンプルを各種質量分析(UPLC-TOF/MS、GC-EI/MSなど)にて分析し、検出されたMSイオンピーク数やノイズレベル、データベース照合によるマッチングした化合物の数により、サンプル調製条件の特性を把握する。これらの結果を踏まえ、更なる疾患モデル動物の飼育・試料の採取を行い、同様の解析から腸管内におけるバイオマーカーの探索・同定を行う。同定された化合物については、ヒト単球由来細胞THP-1へ曝露し、real-time PCRおよびELISA法を用いたサイトカイン産生能を指標に起炎活性を評価する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、昨年度の採取した疾患モデル動物試料を用い、更なるサンプル調製法の検討を行う(サンプル調製試薬費)。また、肥満モデルマウスおよび対照コントロールの飼育を開始し、盲腸・大腸内容物、糞便サンプルの回収を行う(実験動物購入・飼育費)。以上の操作より調製した試料の質量分析を行う(分析カラム、溶媒、共通利用機器使用料)。起炎物質候補として抽出・同定された化合物の炎症誘導活性およびその分子メカニズムを解析する(細胞培養関連試薬、サイトカインアレイ試薬、Real-time RT-PCR試薬など)。さらに、これらの研究成果の学会発表および学術論文発表費用を予定している。
|