研究課題/領域番号 |
23650493
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研究機関 | 島根県立大学短期大学部 |
研究代表者 |
直良 博之 島根県立大学短期大学部, 健康栄養学科, 准教授 (70222156)
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キーワード | エネルギー吸収効率 / 人工消化基質 |
研究概要 |
【実験動物を用いたエネルギー吸収効率測定】ラットの盲腸内には多量の糞便が停留し,正確なエサと糞便の対応が困難であることが分かった。そこで,盲腸内残留物の影響を考慮し,二日間絶食させたラットに対し,専用に制作した大型胃ゾンデ(外径3.1mm,内径2.5mm)を用い,一定量のエサとともに,人工基質,目印のシリコンパテを直接胃内に注入する,という測定方法を確立した。その後エサおよび結腸・盲腸内の糞便についてボンベ式熱量計にて燃焼レベルのエネルギー吸収効率を測定した。 同時に注入する人工基質については,胃ゾンデを用いる事でラットの咀嚼による影響を除く事ができたが,種々の消化酵素阻害剤を添加した人口消化基質は排泄までに完全に消化されていた。そこで消化酵素阻害剤の添加の変わりに,ホルムアルデヒドによる架橋処理を行い人工基質の難消化処理を試みた。その結果,処理時間,処理濃度に対応した人口消化基質の難消化化が確認できた。この難消化人工基質をラットに胃ゾンデを用いて投与したところ結腸内に難消化処理の程度に対応し消化された人工消化基質を確認する事ができた。 これらの実験により,動物実験で当初目的としていた,燃焼レベルでのエネルギー吸収効率と,人口消化基質の消化度を対応させ回帰式を得る事ができた。また既に食品添加物として用いられている人口消化基質のベース(ジェネシス:第一化成)が動物に大きな影響を与える事なく,エネルギー吸収効率の測定に用いる事ができる事が確立された。また人工消化基質の消化度は,タンパク質の架橋反応により広い範囲で調節できる事が示された。 【ヒトを用いた実験に向けて】以上の結果より,次のステップであるヒトにおける測定に向け,動物実験での基礎的データを得る事ができた。ホルムアルデヒドで処理した人工消化基質はヒトには用いる事ができないため,安全性の高い他の架橋剤について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の実験計画で予定していた,ヒトでの測定を行う事ができなかったため,「やや遅れている」と評価した。実験計画にも記載しているように,ヒトを用いた実験は,その安全性や倫理性を研究倫理審査委員会に諮った上で承認を得て行う必要がある。そのためには動物実験による充分な安全性の確認が不可欠となる。そこでラットを用いた基礎的データを増やす事に注力した。 結果として,数点の検討項目は残っているものの,ヒトにおける測定について充分な見通しを得る事ができたのは本研究を進める上での大きな成果であると評価している。ヒトでは不可能な観察,すなわち消化管内での消化状況の確認(胃内では全く消化されず,主として回腸内で徐々に消化される)を行う事ができた。また消化管内の消化度とin vitroにおける消化剤による消化度が良く一致することも今後の研究を行う上での重要な知見であると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトにおける,エネルギー吸収効率と人工消化基質の消化度との間の回帰式を得る。すでに確立している,食事と,それに対応する糞便の燃焼レベルでのエネルギーを測定する事によりエネルギー吸収効率を算出する。同時に,食事とともに飲み込んだ人工消化基質の消化度を観察し,両者ができるだけばらつきの少ない回帰直線(曲線)に乗る条件(食事・人工消化基質の組成)を検討する。 そのため,前年度で人工消化基質の消化度を調節するのに用いたホルムアルデヒドの代替架橋剤を検討する。ヒトに対しての安全性が求められるため,現在のところ糖(アルドース,ケトース)を架橋剤として利用することを予定している。人工消化基質の検討と並行して,基質の単純摂食によりヒトにおける消化基質の消化度を確認するとともに,着色した層構造の人工消化基質を作成する。 これらの準備を終えた後,島根県立大学短期大学部松江キャンパスの,研究倫理審査委員会に申請を行い,ヒトでの実験の承認を得る。その後,ボランティア(学生ボランティアを予定している)による測定を行い,当初目的である,ヒトにおけるエネルギー吸収効率を簡便に測定するための回帰式を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
ボランティアへの謝金(200千円),標準食購入費(200千円),特製レトルトパウチ(糞便処理用,50千円),熱量計使用料(50千円)への支出を予定している。当初の消耗品予定であった消化酵素阻害剤経費は不要となった。 人工消化基質作成に関わる消耗品などは購入済みである。
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