中等科学教育において育成された広義の科学的能力を,大学入学試験等において評価する可能性を模索するため,「化学」を例として①大学入試問題の分析・評価,②モデルパターンの抽出,③評価すべき科学的能力の分類と内容設定,④入試問題の骨格構造モデルの開発,⑤入試問題の題材となる化学素材の探査と基礎的実験データの収集,⑥入試問題の試作,および⑦模擬試験の実施と評価の研究項目を段階的に推進した。 最終年度にあたる平成25年度は,それまでの研究項目①~④の結果を基にして,また研究項目⑤の成果を活用して、⑥入試問題の試作に取り組み,大学新入生を対象として試作した問題を用いて⑦模擬試験の実施し,その結果の分析評価を行った。筆記形式の作問は,評価すべき科学的能力として設定した科学的説明,比較・分類,推論,モデル化,科学的発案などの多くの項目に対応する評価問題の作成が可能であった。評価問題の題材となる化学素材については,それぞれの評価項目ごとに学習内容の分野に偏りが生じた。一方で,マークシート形式の作問においては,科学的説明,科学的発案などのいくつかの評価項目に対する評価問題の作問が他の評価項目の作問と比較して難度が高いことが分かった。これらの評価問題を用いた模擬的試験の結果からは,それぞれの評価項目ごとに正解率の分布が得られ,これらの結果を基に評価すべき科学的能力ごとの評価の尺度開発の可能性が示唆された。 一連の研究を通じて,筆記形式ならびにマークシート形式の問題により中等科学教育において育成されるべき科学的能力を評価できる一定の可能性が示唆された。一方で,本研究において,それぞれの科学的能力の評価のための作問に活用した化学素材は,評価すべき科学的能力ごとに学習内容との関連で顕著な偏りを示しており,さらに科学的能力を評価する問題作成のフレームワークの開発と化学素材の発掘が望まれる。
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