研究課題/領域番号 |
23650512
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岩崎 秀樹 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (50116539)
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研究分担者 |
馬場 卓也 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (00335720)
松浦 武人 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70457274)
國本 景亀 高知大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (10144792)
銀島 文 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター, 研究員 (30293327)
真野 祐輔 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (10585433)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | PISA国際学力調査 |
研究概要 |
本科研では,「リテラシー」と「数学教育学」との相互照射のもとで,とくに後期中等教育段階に焦点をあてて理念的・原理的な考察を行い,数学教育学の新たな課題領域を創出することを目指している。平成23年度は初年度にあたるため,研究のキー・コンセプトの明確化および研究の理論的基盤の整備を図るべく計2回の研究者集会を開催した。第1回集会では,本科研の研究課題と近年の数学的リテラシー研究の展開を踏まえ,ディベート方式で議論を進めた。数学的リテラシーを批判的に議論する立場からは,応用指向としての数学的リテラシー時代の難点が構造指向としての数学教育現代化時代とのアナロジーによって提案された。また数学的リテラシーを建設的に議論する立場からは,数学と社会の関係を社会学的に考察する観点として「Math for All」を視野に入れることが提案された。数学的リテラシー論を,これまでのわが国の数学教育と歴史的に比較したり,国際教育協力の文脈のもとで国際的に比較したりすることにより,わが国の知識基盤社会における数学的リテラシーの位置をより明確にすることができた。第2回集会では,数学的リテラシーと教員の質保証の問題が議論された。現代日本の学校教育は,団塊世代教員の大量退職に伴う新人教員の質保証という喫緊の課題を抱えている。改正学校教育法に示された教科主義から能力主義への理念的移行は,新たな時代の新たな教育を担う教師教育が求められていることを示唆しており,そのための教師教育の組織的開発は不可欠である。とりわけ高等学校教師の職能成長をどう捉えるかとう問題は,これまでの伝統的な授業研究によって解決されるものではなく,新たな方法論を開発する必要があることが議論された。数学的リテラシーの視座から,数学教師教育を数学教育学のゴールとして捉えるとき,新たな課題領域の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、数学教育研究の焦点を後期中等教育の「数学」にあて、これまでの大学進学に向けたhiddenカリキュラムを払拭すべく、社会と数学との関係性をリテラシーという視座から社会学的に検討し、数学教育学の新たな課題領域を創出することを目的としている。そのため平成23年度は科研メンバーで9月と3月に2回の研究者集会を開き、数学的リテラシーを単なる流行の研究テーマにしないための具体的な課題を議論し、数学教育学の視座から課題群の創出とプライオリティを検討した。 課題群で1位にしたのは高校の数学教師教育であった。まず高校は学校教育の出口に位置づき大学進学に向けたhiddenカリキュラムの実施者であったが、数学教育学的には無批判というよりは、ほとんど関心を持たれていなかった。教師教育は現在の喫緊の課題である。教員の人口動態を見れば、現在を逃せば、数学的リテラシーを視座とする教師教育研究などほとんど現実味のない空言になる恐れがある。こうした状況から高校数学教師教育の在り方に焦点を絞りつつ課題の創出に急いでいる。 その成果の一端として、昨年度末に大阪教育大学でミニ研究者集会を持ち、高校数学教師教育をテーマに、日本科学教育学会の「科学教育研究」に投稿することが検討された。研究代表者と研究分担者(真野)と研究協力者(杉野本)の3名で、4月に「デザイン科学からみえる数学教師教育の課題と展望―中等教育段階における授業研究のための新たな視角―」を標題とする論考を「科学教育研究」に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度には2回の研究者集会を開催したが、残念なことであるが2度とも欠席の研究分担者がいた。今年度についても積極的な参加を見込めないので、配分経費を減額せざるを得なかった。代わって、数学的リテラシーを研究テーマとする研究者から研究分担者(新潟大学尽社会教育学系・阿部好貴)の同意を得たので、新たに同氏をメンバーに加え、平成24年度から新体制で研究に臨む。 平成24年度も昨年度に引き続き、夏と春の2日の研究者集会を企画している。昨年度は大学研究者だけの集会を実施したが、本年度は学校現場で教鞭を執る実践者に声をかけ、現場的な視座から、課題を掘り起こしていきたいと考えている。強力な研究分担者をメンバーに加えることができたので、中等教育における数学的リテラシー研究の課題と展望の明確化と、研究分担者全員による、研究論文執筆投稿を企画したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度も夏と春の2日の研究者集会を企画している。昨年度は大学研究者の集会を実施したが、本年度は学校現場で教鞭を執る実践者に声をかけ、現場的な視座から、課題を掘り起こす予定である。 研究分担者にはそれぞれ研究費を配分し旅費に充当するようにしている。しかし現場の実践者にはそれがないため、彼等をお呼びするするための旅費・謝金として、研究代表の研究費を留保活用したいと考えている。
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