研究課題/領域番号 |
23650513
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村上 清文 山口大学, 教育学部, 教授 (20157746)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 分子運動視覚化教材装置 / 相互作用のあるモデル分子系 / ファンデアワールスの状態方程式 / 化学反応 |
研究概要 |
児童生徒の粒子的・運動論的物質概念理解の促進を図るため、筆者が考案した実体モデルを用いた分子運動視覚化教材を発展させることを目的として、本年度は、1)学校現場での利用に供するための小型化装置の開発および2)応用可能な授業分野の探索と適したモデル分子系の開発を行った。1.小型化装置の開発では、モデル分子の運動励起機構や圧力測定機構の改良を行い、試作機を製作した。現在は装置の振動除去の改良中である。2.応用可能な授業分野の探索と適したモデル分子系の開発に関しては、ファンデアワールスの状態方程式(高等学校高学年、大学)および化学反応(中学校、高等学校、大学)を表現するモデル分子系の開発を行った。前者では、スーパーボール球に内接する正四面体の頂点法線方向に円筒形磁石を、N極とS極が2個づつ外に出るように、埋め込み、相互作用のあるモデル分子とした。このモデル分子系により、ファンデアワールスの状態方程式に特徴的な圧力の体積依存性を観察することができた。また、低温領域においては、気液平衡状態様の挙動も観察することができた。後者に関しては、N極またはS極が一つ外に出るように磁石を埋め込んだスーパーボールを多数共存させることによって、典型的な化学反応A+B=Cのモデル系を構築した。平衡状態におけるモデル系のスナップショットを多数撮影し各反応種の濃度を求め平衡定数を算出し、さらに平衡定数の温度依存性から反応の内部エネルギー変化を求めることができた。この値は、モデル分子間に働く力の直接測定から求められる結合エネルギーの値と良く一致した。 以上のことから、本分子運動提示装置とモデル分子系の組み合わせによって、相互作用のある分子系の挙動を良く表現できることが明らかになり、中学校から高校、大学に渡る教育内容に即して、物質の粒子的・運動論的概念理解の促進に利用できる可能性があることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、児童生徒の粒子的・運動論的物質概念理解の促進を図るため、筆者が考案した実体モデルを用いた分子運動視覚化教材をさらに発展させることである。このため、本年度は、分子運動提示装置の小型化および応用可能な授業分野の探索と適したモデル分子系の開発を計画・実施した。 装置の小型化に関しては、モデル分子の運動励起(打ち出し)機構の改良および圧力測定システムの改良によって、小型試作機の製作ができた。振動の除去が未だ十分でなく改良が必要であるが、今年度の目的はほぼ達成できた。 応用可能な授業分野の探索とモデル分子系の開発に関しては、1)相互作用を持つ分子系が気体状態から液体状態へ移り変わる挙動を表すファンデアワールスの状態方程式のシミュレーション、2)典型的な化学反応の一つである二分子結合反応A+B=Cのモデル系による動的平衡の視覚的観察、平衡定数および内部エネルギー変化の決定、さらに、3)結合手間の協同性を観察・解析可能な仮想的三量体形成反応モデル系の開発に成功した。これらの結果は、本装置と適切なモデル分子系の組み合わせによって、物質の粒子的・運動論的概念の定性的側面のみならず定量的な解析の教材としても利用できること、すなわち、中等教育から高等教育にわたる広い教育内容に利用可能であることを示しており、当初の計画通りまたはそれ以上の達成状況であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、基本的に当初の予定通り、以下の研究を推進する。 1)学校現場で使用可能な提示教材装置の開発:小型化した分子運動提示装置は発生する振動のため教育現場で使用できるには至っていない。この振動を除去するための装置の更なる改良を行う。 2)引き続き応用可能な授業分野の探索とモデル分子系の開発を推進する。具体的には、原子の組替えを伴う気体反応モデルや高分子のへリックス構造の形成モデルの開発を試みる。さらに、これまでに開発したモデル分子系を用いた授業案の検討を行う。加えて、小学校から大学にわたる物質の粒子的・運動論的概念に関する教育内容の教授に関して、本装置の系統的な利用法を検討する。 3)得られた成果を日本理科教育学会や日本化学会において発表するとともに、論文としてまとめ発表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、小額の次年度使用額(約2万円)が生じたが、これは消耗品や学会出張経費の節約によるものであり、次年度の消耗品等に当てる予定である。 次年度の研究費の使用計画は以下の通りである。1)消耗品費:モデル分子系の開発のための磁石類、部品類、および、研究成果の発表のための論文別刷代として使用する。2)旅費:研究成果の学会発表のための旅費として使用する。3)その他:小型化した分子運動提示装置の振動を除去するために装置の改良を行うが、このための特殊部品作製費・調整役務費として使用する。
|