研究課題/領域番号 |
23650526
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
岩井 淳 群馬大学, 社会情報学部, 准教授 (60293081)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 個人情報漏洩 / 匿名性 / 授業評価 / 教育支援システム |
研究概要 |
平成23年度は,当初計画の(α)の機能(匿名性を損なう恐れのある項目の自動検出)と(β)の機能(データベース内の格納データの自動修正)の実装を行った。(α)では,「匿名性」の概念を数理的にフォーマライズする作業が中心であり,その尺度を用いて一定水準をこえた個票を問題ケースとして取り出すアプローチをとった。(β)は主としてシステム設計の問題であり,リレーショナルデータベースの特徴を活用した設計を行った。 (α)では,匿名性水準を各設問項目ごとに回答票のもつ自己情報量の総和として計算する観点から匿名化尺度を設計した。N人が回答を行い肯定的回答がM票,否定的回答がN-M票であった場合,外部者からみたこの設問項目の匿名性をlog(N!/M!(N-M)!)と定式化する基本方針を採用した。さらに,複数の設問項目と複数の選択肢を許す一般的な枠組みを前提とした理論設計を行い,システム的実装を行った。 (β)では,リレーショナルデータベースの特徴を活用して設計を行った。匿名性を失わせるような設問項目を,あたかも最初から質問票が分けられていたかのように独立項目化する機能を実装した。 当初,本研究の匿名性尺度の開発は投票の匿名性水準に関する先行研究の応用という位置づけであったが,上記(α)の作業では従来不明であった先行研究の匿名性尺度の数理的特徴を明確化する成果も上げられた。その「自己情報量の総和」という基本技法が,参加者(投票者)特定の困難さという意味での匿名性の水準を,通常のエントロピー計算よりも適切に測定できることを確認する理論的成果を上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度の作業として計画した(α)の機能(匿名性を損なう恐れのある項目の自動検出)と(β)の機能(データベース内の格納データの自動修正)の実装を予定通りに進めることができている。 このうち(α)の設計部分では,別記のように,従来不明であった先行研究の匿名性尺度の数理的特徴を明確化するという予定以上の成果が上げられた。すなわち,自己情報量の総和という匿名性水準の測定技法が,参加者(投票者)特定の困難さという意味での匿名性の水準を,通常のエントロピー計算よりも適切に測定できることを確認する理論的成果を上げることができた。この展開により,本研究は,授業評価支援システムだけでなく,投票者の匿名性をより厳密に保証する新たな電子投票システム等,より一般的なDSS研究に結びつく可能性が高まった。当初予定以上の成果が上げられたため,計画していた国際会議でなく,より難度の高い英語論文誌に研究原稿を投稿した(現在審査中)。 (β)の設計部分についても,理論的設計を精緻化する中で(α)の設計部分と連動する改良を行い,当初計画よりも一貫した設計とすることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,構築したプロトタイプシステムを運用レベルのシステムに拡張し,運用・実験サーバを用いて実際の利用実験を行う。大学の実際の講義に関する授業評価に用いて,学生および教員双方の評価を確認する。 運用レベルのシステム開発については,申請者自身が中心となりインプリメントを行う。目標システムは基本的動作の問題はないものと見込まれるものの,実際の運用のためには,具体的な実験手順の確立と,それに合わせた実験協力者(教員と学生双方)に解りやすいインターフェースの構築が必要である。これらの具体的な準備を進めたうえで授業評価システムとしての運用実験を行う。構築システム評価と授業評価とは別の問題であるため,教員および学生双方に対するシステム評価に関する調査も併せて行う。これらのデータ分析を通してシステム評価を行い,その結果は実証的研究としてまとめて国内外で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
構築したプロトタイプシステムを運用レベルのシステムに拡張する作業のため,運用・実験用サーバと開発用ソフトウェアの購入を行う。申請者自身が中心となってインプリメント作業を行うため,開発外注の予算は含まない。また,研究成果を国内外で発表するための旅費,英語論文の校閲の料金および研究成果投稿料として予算が必要であるため,この目的で研究費を使用する予定である。国内旅費は学内の学会とシンポジウムにおける発表を想定している。海外旅費は国際会議における発表用であり,英語論文の校閲の料金と研究成果投稿料もこの国際会議における発表のためである。以上は当初計画の通りである。 前年度においては,別記のように,当初計画していた国際会議でなく,より難度の高い英語論文誌に研究原稿を投稿した。このため国際会議用の旅費を使用しなかったため,一時的に予算が残る結果となった。しかし,この点は当初の予定以上の成果を上げられたためであり,研究期間全体としては発表すべき内容がより多く見込まれる展開となっている。前年度の残額はこれらの研究発表旅費に充てる計画である。
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