本研究の目的は,社会の先端科学の発展に寄与する高度な研究者の育成を目指した戦略的な教育カリキュラムの設計を,専門的な教育に入る準備段階にあたる初等中等教育カリキュラム(具体的には,理科)で実現することであった.この研究では,世界的に評価の高い日本の初等科学教育における学習活動の構造が持つ特徴と,それを先端科学の基本概念の学習に連動させる知識創造型学習カリキュラムの考え方を融合させる.教育センターの指導主事(理科)や現場の教諭らとの授業研究チームを構成し,具体的な実践活動を通して,カリキュラムの精緻化をはかった.これによって,ナノサイエンスの理解のための基本概念の抽出と,それを用いた基礎学習のジャパニーズ・スタイルを提唱する素地が確立した. 先端科学と初等中等教育を連結する概念的な枠組みは,Learning Progression Modelsとして北米を中心に研究されており,その成果はCommon Core State Standardsに反映されている.本研究では,その中でも具体的な指導計画が明確になっている粒子論を事例として取り上げ,日本の学習指導要領との違いについて検討し,その差分を有機的に埋めるためのカリキュラムのあり方について仮説実験授業を日本独自の資源として検討の材料とした.その結果,現状の学習指導要領では,LPs modelで言われる中核的な概念について網羅していることが判明した一方で,最終的な理解への道筋の中で中間的な概念として示されるstepping stonesが不明瞭であると同時に,その系統性にも改善の余地が見つかった.こうした問題を解決するために,仮説実験授業の授業書に基づくカリキュラムの系統性を考案し,具体的に行われてきた授業記録から概念の発達の系統性がどれほど支援可能かを検討した結果,LPs modelと同等の効果をもたらすことがわかった.
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